NEW ALBUM  A DISTANT BELL
2004.6.27 ON SALE

幻想的なシルキーヴォイスと印象的なストリングの響き
静かで心にしみるケルティック・ミュージック
キャロライン・ラヴェル「ディスタント・ベル」
RUCD123/税抜定価:2300円/税込定価:2415円/解説:五十嵐 正

1 GENTLY JOHNNY: Trad. arr Lavelle *
2 SO UNCOOL: words & music Lavelle *
3 INNOCENCE SLEEPING: words Brian Patten music Lavelle *
4 BANKS OF THE NILE: Trad. arr Lavelle
5 SIMPLE LYRIC: words Brian Patten music Lavelle *
6 NO MORE WORDS: words & music Lavelle
7 TOO LATE: words & music Lavelle
8 THE TREES THEY DO GROW HIGH: Trad. arr Lavelle/Harvey Brough
9 GREENWOOD LADDIE: music David Bedford words trad arr Lavelle ***
10 TIMELESS: words & music Lavelle **
11 HANDFUL OF ASHES: words Siamanto music Lavelle *
12 FAREWELL TO MUSIC: Turlough O'Carolan arr Lavelle
13 GENTLY JOHNNY (extended version): Trad. arr Lavelle *
 特に最後の二曲のプログレ的盛り上がりは、最高です! 必聴!

Greenwood Laddie performed by Caroline Lavelle
with music from Twelve Hours of Sunset by David Bedford by permission of Universal Edition (London) Ltd.

Twelve Hours of Sunset BBCSO /CEFC /Jac van Steen, (P) 1998 NMC Recordings Ltd.

Brian Patten's poems taken from 'Love Poems' published by Flamingo Books (HarperCollins) with the permission of the author

Paddy Moloney appears courtesy of the RCA Victor Group

Mixed by Caroline Lavelle and Arabella Rodriguez
Mastered by Nick Robbins at Sound Mastering Ltd
Produced by Caroline Lavelle and Harvey Brough
Executive Producer Ian Blackaby

Harvey Brough acoustic guitar 1 2 3 5 6 7 8 10 13, psaltery 4 8, cor anglais 5, backing vocals 1 13, piano 2 5, accordion 5;
Alec Dankworth bass 1 4 5 6 7 8 10 13;
Mike Outram electric guitar 1 2 7 10 13, acoustic guitar 1 6 13;
Roy Dodds drums & percussion 1 2 3 4 5 8 13;
Paddy Moloney whistle 12;
Triona Marshall harp 4 12 ;
Hugh Marsh electric violin solo 6;
John Bews acoustic fiddle 6;
Julian Sieger bass clarinet 11;
Garbis Yessayan Armenian language coach 11;
CL solo cello, vocals, recorders, piano, bvs, accordion, organ

String arrangements on So Uncool, Gently Johnny, Timeless & Innocence Sleeping by Harvey Brough,
string arrangements on Simple Lyric & A Handful of Ashes by CL.
Alec, Roy, Julian and Mike recorded by Harvey Brough,
Paddy Moloney recorded by Mark Horton,
Strings recorded at Cava Studios, Glasgow by Tony Doogan assisted by Michael Bannister,
cello on The Trees recorded by Rik 'it's the trees Rik' Simpson,
remaining recorded by CL

*Strings: The Scottish Festival Orchestra
First Violins: Greg Lawson**, Lise Aferiat, Justine Watts, Charles Mutter, Elin Edwards
Second Violins: Jackie Norrie**, Carole Howat, Joanne Green, Fiona Stephen, Catherine James
Violas: Michael Beeston**,
Susan Harris, Martin Wiggins
Cellos: John Davidson**, Alison Lawrance
Double Basses: Rick Standley**, Nick Bayley.
**String quintet.
Fixer: John Davidson
Conductor: Harvey Brough

ライナーノーツ

 キャロライン・ラヴェルの待望の新作『ディスタント・ベル』の登場だ。それも本国の英国よりも、世界のどの国よりも3ヶ月も早い日本先行発売である。
 この日本盤ライナーノーツの執筆にあたり、キャロライン本人に電話で1時間ほど話を聞くことができた。本稿にはその際に得られた情報を盛り込んであるが、彼女が快活でチャーミングな女性であり、とても楽しい会話を交わしたことをまず報告しておく。
 

 それでは、本人に聞いた話や過去のインタヴュー記事などを基に、キャロライン・ラヴェルのこれまでのキャリアを振り返ろう。
 キャロラインは考古学者の娘に生まれ、幼い頃は世界各地を転々とし、キューバやアルゼンチンなどにも住んだ経験もあるが、主にイングランド南西部のサマセット州で育った。
 彼女は生まれたときから音楽に囲まれていた。というのは、母方の祖父が著名な指揮者だったから。その祖父は英国の国民的作曲家エドワード・エルガーと共に、ウェストミンスター寺院での国王ジョージ5世の戴冠式の指揮を務めたほどの人。儀式の際によく見かける旗を吊り下げた管の長いトランペットを発明したのが、誰あろう彼なのだそうだ。
 とはいえ、家の中に流れていたのはクラシック音楽だけではなかった。ラヴェルという苗字はフランス系かと思いきや、アイルランドのメイヨー辺りに多い名前とのこと。キャロラインの母親はコーク出身のアイルランド人で、娘に故国の伝統歌を歌ってくれた。また、祖父もクラシックの音楽家とはいえ、採集した伝承曲を題材に作曲をした英国の大作曲家ヴォーン・ウィリアムズの作品の初演を指揮したこともあり、伝統音楽への関心がある人だったそうだ。
 キャロラインがチェロを始めたのは6歳のとき。本当はヴァイオリン志望だったのだが、学校にその楽器の数が充分に無く、仕方なくチェロを選んだという。それにもかかわらず、彼女はめきめきと才能を現わし、15歳で親元を離れ、ロンドンの名門ロイヤル・カレッジ・オヴ・ミュージックに進学。18歳までの3年間、その王立音楽専門学院でチェロの腕を磨いた。
 しかし、彼女は卒業後に有名交響楽団の一員を目指す道を選ばなかった。「自分の思うようにやりたかった。(オーケストラの)チェロ・セクションの中に座って、同じ曲ばかり弾くのとは違ったことをしたかったの」。そう考えた彼女は友人とユーモレスクという名前の弦楽器トリオを結成する。彼女たちの最初の仕事はニュー・ウェイヴ・グループ、スージー&ザ・バンシーズの82年のアルバム『キッス・イン・ザ・ドリーム・ハウス』だった。
 まもなくキャロラインは英国きっての売れっ子チェロ奏者となり、これまでにピーター・ゲイブリエル、レディオヘッド、ウォーターボーイズ、ロリーナ・マッケニット、坂本龍一、ヴァンゲリス、クランベリーズ、インディゴ・ガールズ、ナイジェル・ケネディなど、様々なアーティストのアルバムやツアーに参加してきた。その中でも彼女のアーティスト活動に大きな影響を与えたのは、80年代半ば、当時は自他共に認めるアイリッシュ・ミュージックのトップ・グループだったデ・ダナンへの参加である。
 デ・ダナンは以前からサウンドの低音部を充実させるためにチェロを加えたいと考えていたが、適任者を見つけられずにいた。そんな或る日、リーダーのフランキー・ギャヴィンがロンドンのコヴェント・ガーデンでユーモレスクの演奏に遭遇したのだ。フランキーはその場でキャロラインをグループに誘う。
 

 彼女はその誘いに応じ、デ・ダナンに加わるが、伝統音楽のグループがリハーサルを一切しないのにとまどった。「フランキーはリハーサルなんて女々しいと思ってるの(笑)。だから、舞台上でぶっつけ本番でやるしかなかった。初めて聴く曲に即興でハーモニーをつけるのだから、すごい訓練になったわね。次は(キーが)Dだと言われるだけなの。ほとんどの曲がDなのに(笑)」。デ・ダナンはキャロラインの在籍中に名作『ボールルーム』(87年)を残している。
 それまでチェロ演奏に専念していたキャロラインが歌うようになったのも、デ・ダナン在籍中のこと。コーラスの役割を振られて歌い始めたのだ。デ・ダナンの歴代歌手といえば、ドロレス・ケーン、メアリー・ブラックというアイルランドを代表する名歌手揃い。キャロラインは彼女たちの歌にコーラスをつける経験から歌を学んでいった。
 また、キャロラインが自作曲を書き始めたのも、今から約15年前というから、その時期のようだ。それまで彼女は「ソングライターは錬金術師か魔法使いだと思っていた」のだが、友人のくれたフォーテックの4チャンネルのカセット・レコーダーに音を重ねて1曲を作った後は、堰を切ったように曲を量産するようになった。そんな彼女のソングライティングに影響を与えた人を尋ねると、デイヴィッド・ボウイ、ジョニ・ミッチェル、サンディ・デニー、ニック・ドレイクらの名前が挙がる。
 キャロラインのソロ・デビューのきっかけは、彼女が歌ったマッシヴ・アタックの曲〈ホーム・オヴ・ザ・ホエール〉を聴いたプロデューサーのウィリアム・オービットが興味を持ち、ケルティックの伝統歌をエレクトロニカで料理するというプロジェクトへの参加を打診したことだった。オービットはキャロラインのソングライターとしての才能を知り、結局彼女のアルバムをプロデュースすることになる。 
 95年に発表されたキャロラインのデビュー・アルバム『スピリット』は、彼女のクラシックとケルティック・フォークをバッ
クグラウンドにした美しいメロディーがオービットのエレクトロニカのサウンドと結び付けられたアルバムだった。オービットは98年にマドンナの『レイ・オヴ・ライト』をプロデュースするが、マドンナが彼を起用した理由は『スピリット』が気に入ったからとも言われている。
 01年に彼女は自分でプロデュースした第2作『ブリリアント・ミッドナイト』を米国先行で発表する。前作よりもエレクトロニカの要素が減り、もっとオーガニックなサウンドを聞かせるアルバムだったが、実のところ彼女は所属レーベルと意見を違え、多くの点で妥協を強いられていた。前作から5年もの間隔が開いたのも主にそのせいだったという。
 だが、彼女にとって幸いにも、その所属レーベルが畳まれることになり、彼女はアルバムの原盤を自分の手にしたまま自由の身となった。そこで、キャロラインは自分のレーベル、リンギング・トゥリーを設立。新たに録音した3曲を追加、リミックスを施し、曲順も変えた改訂版『ブリリアント・ミッドナイト2.0』を02年に発表した。
 

 さて、本作『ディスタント・ベル』だが、前2作と比べても、いっそうケルティック・フォーク色の濃い、そして親密な雰囲気を持つ美しいアルバムに仕上がっている。それは彼女の最初からのねらいだったようだ。「今回はエレクトロニクスを使わず、全部楽器で演奏しよう」と決め、そのおかげで録音も比較的短期間で済んだという。
 伝統歌を基にした作品が5曲あるが、当初は全部を伝統歌で固めるというアイデアもあったという。だが、敬愛するサンディ・デニーが1枚のアルバムの中に自作と伝統歌を共存させながらも、統一感を作り出していたのを見習うことにしたのだ。
 取り上げた伝統歌はどれも多くの人に歌われている有名な曲で、彼女も長らく親しんできたものだが、冒頭の〈ジェントル・ジョニー〉だけは比較的最近に友人に教えてもらった曲だという。「エッチな(naughty)歌よね。父に聞かせられないわ。ま、それほどエッチでもないかしら」と笑う。そして、〈グリーンウッド・ラディ〉は伝統歌の歌詞をデイヴィッド・ベッドフォードの曲に載せたものだ。ベッドフォードは元々前衛音楽の作曲家だったが、マイク・オールドフィールドの大ヒット・アルバム『チューブラ・ベルズ』のオーケストラ編曲版を担当して評判を呼び、その後はロック/ポップ畑でも編曲家として活躍してきた。
 〈ハンドフル・オヴ・アッシズ〉はアルメニア語で歌われている。これは第1次世界大戦で亡くなった詩人、それも戦争に関わった様々な国の詩人の詩を集め、それに曲をつけるという制作中のアルバム『Lost Voices of World War 1』からの曲だ。この詩を書いたシアマントは15年のアルメニア知識人751人虐殺の犠牲となった抵抗の詩人である。その野心的なアルバムは現時点で5、6曲の録音が済んでいるが、すべて現地語で歌う企画ゆえ、歌詞の抑揚に合った音楽になっているか、歌唱の発音は正しいかをその国の人にチェックしてもらいながら作業を進めているので、とても時間がかかるということだ。
 もちろん、この〈ハンドフル・オヴ・アッシズ〉やナポレオン戦争時にエジプトの戦いに出征する若者と恋人の物語の〈バンクス・オヴ・ザ・ナイル〉といった曲を収録したのは、この数年の世界情勢へのキャロラインの静かな抗議であることは言うまでもない。
 参加したミュージシャンの中でも特筆すべき存在は、共同プロデュースも手がけているハーヴィー・ブラフだ。彼女が「ハーヴィーはルネッサンス・マンよ。どんな楽器でもこなす」というように、ギターからキーボードまで様々な楽器を担当した。彼もクラシックの勉強をした音楽家で、幅広いジャンルで作曲と編曲の仕事をしている。
 キャロラインが「彼はファンタスティック!」と言うのは、〈ノー・モア・ワーズ〉でエレクトリック・ヴァイオリンのソロを聞かせるヒュー・マーシュ。長年ブルース・コバーンのバンドで活躍してきた名手だ。
 ドラムズとパーカッションはフェアグラウンド・アトラクション〜エディ・リーダー・バンドの好漢ロイ・ドッズが担当した。
 そして、チーフタンズのリーダー、パディ・モローニが、現在のツアー・メンバーのトゥリオナ・マーシャル(ハープ)と共に、アイルランドの伝説的なハープ奏者/作曲家のターロック・オキャロランのお馴染みの曲〈フェアウェル・トゥ・ミュージック〉に参加している。キャロラインはこの数年チーフタンズのツアー・メンバーも務めているのだ。この曲を取り上げたのは、02年10月に亡くなったチーフタンズのハープ奏者デレク・ベルへの追悼の気持ちからに違いない。
 

 キャロラインは現在イングランド南西端の州コーンウォールに住み、「英国でも最も海岸が美しい場所」で自然に囲まれた暮らしを楽しんでいる。そんな田舎暮らしの唯一の不満は「日本食レストランがないこと」だという彼女は過去に一度だけ来日経験がある。92年にデ・ダナンと一緒に「WOMAD横浜」出演のためにやってきたのだ。その滞在中はあまりに楽しくて5日間ほとんど寝なかった親日家は再来日を熱望している。是非とも彼女と日本で会いたいものだ。

2004年5月
五十嵐正 Tadd IGARASHI

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