白石和良氏の監修のもとご紹介する英国湖水地方カンブリアのレーベル、
FELLSIDE RECORDINGSシリーズ
FELLSIDE RECORDINGS 
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●新作紹介 
真夏のFELLSIDE 新作レポート(2000年8月)
「FELLSIDE から新作が届きましたヨ」と次の3枚のCDを送って頂き、すぐ耳にしてPETA& KEN の新作に仰天したのですが、レポートをしなければと思いつつ房事をこなしている内にそれから早くも3週間近くが経ってしまいました。例によって以下の駄文で興味を持たれた向きは是非ミュージック・プラントへ国内リリースのリクエストをお寄せ下さい。2000年8月 白石和良
PETA WEBB & KEN HALL : AS CLOSE AS CAN BE (FECD155)

「彼らはそれぞれ素晴らしいが、一緒ならばとびきりだ。」ジャケットの推薦文には少しの誇張もない。二人がとびっきりのディープな唱和を聴かせる2曲目"YODEL IT OVER AGAIN" を耳にした時言葉を失い、次の瞬間には目頭がどっと熱くなってしまった。そして"THE SEASONS" 、"I AM STRETCHED ON YOUR GRAVE"....とこの壮絶な歌はまだまだ続くのだ。ケン・ホールの安定感のあるバリトン・ヴォイスに乗って、独特の生々しい歌声を聞かせるペタ・ウェッブは、トラッド歌手としてこの上もない程素晴らしく、しかも昔から少しも変わらない若々しさ。またしても良くぞリリースしてくれました、フェルサイドよ!と叫びたくなってしまう。これは70年代初頭からずっと変わらず歌いつづけてきたペタの久々のアルバム(SISTERS UNLIMITEDを除けば本当に10年ぶりくらいか) なのだ。

 ペタはロンドン生まれで、オックスフォード大学のヘリティッジ・ソサエティーでトラディショナル・ミュージックの知識を深め、地方のパブでアイルランド出身の歌手達から歌を学んだというユニークな経歴を持つ。(彼女が活動を始めた70年代までの頃は特にそうだと思うが、)英国のフォーク・シンガーには高学歴者は少なかったし、「所詮はインテリのお嬢さんが趣味で歌っている」(?) などと揶揄されたとかの話も伝え聞く(まあホントのところはどうだか知りませんが)。しかし、彼女の歌声とトラディショナル・ソングへ情熱はまさに掛けがえの無いもので、彼女は一切の虚飾を排した歌をこの30年間一途に歌い続けてきたのである。ペタの音楽活動を記録したレコードとしては、71年のTOPIC 盤"OAK:WELCOME TO OUR FAIR" と同じレーベルからの72年作"I HAVE WANDERED IN EXILE"が古くからの英国フォーク・ファンには良く知られている。前者は今やTOPIC レコードのボスとして君臨? しているトニー・イングルや、メロディオンの名人ロッド・ストラディング達とのグループで、イングリッシュ・カントリー・ミュージックを演奏するリバイバル・バンドの草分け的な存在だった。トニーはアングロ・コンサーティナを演奏していたが、ペタもここでは歌の他フィドルを弾いていた。そして72年作の方はシンガーとしてのペタのソロ・アルバムで、無伴奏もしくは最小限の楽器をバックに、彼女の最も得意とするアイリッシュ系の歌をじっくりと歌った傑作アルバムで、そのジャケットの解説にある通り、彼女の歌唱法は基本的にはイングリッシュ・スタイルながらアイリッシュのシンガーやトラベラー達の影響を受けたもの。例えばここで歌のソースとして名を挙げているリタ&セイラ・ケーンやブリジット・ターニー等といった人達の歌い方(声の装飾音の付け方など)をもペタは受け継いでいる訳だ。もう少し言えば、ペタの歌はアン・ブリッグスでも、フランキー・アームストロングでもなく、あえて言えばジューン・テイバーのある面にやや近いかなといった感じなのだ(ジューンはアンに最大の影響を受けたが、また同時にセイラ・メイケムなどのアイリッシュのシンガーにも影響を受けたという)。

 さてその72年作のアルバム(イングル先生、CD化を!)でぞっこんになったペタなのだが、その後の録音は余り多いとは言えず、知るかぎりでは79年作のスコティッシュ・シンガーのアリソン・マクモーランドとのデュオ・アルバム(これもTOPIC )と、更にその10年くらい後のソロのカセット・アルバム"THE MAGPIE'S NEST"(MUSICALTRADITIONS  これも凄い傑作だ) 、自分名義のアルバムはこれくらいしかない。あとは女性だけのヴォーカルグループSISTERS UNLIMITED の一員として"NO LIMITS"(HARBOURTOWN) と"NO BED OF ROSES"(FELLSIDE) の2枚、そしてフェルサイドの無伴奏シンギングのオムニバス・アルバム"VOICES"に収録されている....主なところはこれ位だろうか。長年のキャリアにしては録音はほんの一握りしかない。しかし、いずれの録音でも一切の妥協を排して基本的に無伴奏で、自分のスタイルで歌い貫いているところが何とも素晴らしく感動的であった。

   そしてOAK から約30年後の今年になって発表されたのが、このフェルサイド盤なのだ。デュエット相手の男性シンガーのケン・ホールはここ10年ペタと一緒に活動しており、二人は英米のトラッド・フェス(高名な伝統歌手に捧げられたステージなど)で歌ってきたほか、90年からロンドンで伝統歌手に場所を提供する目的のフォーク・クラブMUSICAL TRADITIONS CLUB を運営したりしてきたという。更にアイルランド学の学位を取得しているケンは「歌を通してのアイルランド史」についての研究成果を発表したり、またペタは幾多のワークショップを開いてトラディショナル・スタイルの歌を教えてきた。一言でいうとこの二人は強固な意思と情熱で現在進行形のフォークリヴァイヴァルを続けているのだ。

  ともあれ、本作を一聴すると、「おお、これはイングランドのフォーク・クラブそのものではないか」という飾りのないアットホームな雰囲気にどっぷり浸れてしまう。そして心の芯から熱唱する二人。二人のデュエット・スタイルのベースとなっているのは、コパー・ファミリーの様なイングランド伝統のぶ厚いユニゾンで、それに「40年代の米国の兄弟デュエットのスタイル」(モンロー・ブラザースとかの事だろう)といわれるハーモニー・コーラスも聴かせる。....ともかくもう何も言うことはありませんね。二人のそれぞれのソロも勿論聞きもので、例えばペタが伸びやかに歌う"SCARBOROUGH FAIR TOWN" や"THE RICHMAN'S DAUGHTER"など最高の名唱だし、"SILVER DAGGER" などでのケンのストレートな歌もなかなかと思けれど、やはり二人が揃うと更に「圧倒的」。シンニードで知られる"I AM STRETCHED..." の沈み込んだ静かな詠唱から、軽やかで楽しい"WHISKEY IN ME TAY" まで自在に聴かせてくれる。"I AM STRETCHED.."を除くと寧ろそんなに有名でない曲が集まっているだけにペタ達のシンギングそのものの魅力がいやでも分かるのだ。全18曲の内14曲までがトラッドで、イングランドとアイルランドと米国産の歌。言い忘れていたけれど、本作は全くの楽器伴奏無しのアルバムである。そういう意味では、聞き方によっては「取りつくシマもない」ものかもしれないが、本作は無伴奏トラッド歌唱のファンだけではなく、多くのリスナーの心を捕らえる力をもっていると思う、いや確信するのだ。勿論、私にとっては今年の全てのアルバムの中でも屈指の一作である。ペタ様、どうかこれからはフェルサイドでコンスタントにアルバムを発表して下さいね。



ALISTAIR McCULLOCH : HIGHLY STRUNG (FECD154)

  幾多のバンドやフィドル・オーケストラで演奏してきたスコティッシュ・フィドルの名手の始めての自己名義のアルバム。彼はスコッチ・トラッド・バンドのCOLIA を7年間率いて各地のフェスで演奏してきた他、JURA CEILIDH BAND 、BLACK ROSECEILIDH BAND にも参加した事があり、更にSCOTTISH FIDDLE ORCHESTRA のソロイストを8年勤め、またAYRSHIRE FIDDLE ORCHESTRA のリーダーでもあったし、ソロ・プレイヤーとしてもシンガーのモイラ・カーなど色々なミュージシャンとも活動してきた... という経歴を持っている。

 さてこのアルバムではバトル・フィールド・バンドのダキー・ピンコック (フルート、バグパイプ)を始め、ロス・ケネディー (ギター) 、スティーヴ・ローレンス(ブズーキ、ドブロ他)といった腕の確かなプレイヤー達のバックを得て、肩肘を張らずに伸びとしたプレイを全編聴かせている。彼のフィドルは凄腕なのだが、ここにあるのはそれを余り露骨に感じさせないような、実にリラックスした音楽なのだ。一部でドブロ等が印象的に使われているものの全般に革新的なサウンドを目指したアルバムでははい。ケイリー・バンドで演奏していたという彼の経歴通り、ダンス・チューンをダンス・チューンらしく演奏しているのである。ボール・ルーム風のカクテル・ピアノ? が堂々とイントロを取る曲などはそのセンスにのけぞってしまいそう
になるが、これは例外としても確かに(はっきり言って)全体のサウンドのセンスはダサイところがある。しかしそれがまたなかなかいい味を出しているのである。余りに定番的とは言えパイプ・マーチなどの気の置けなさは実に心地よい。

 そして何よりも特筆すべきはスロー・エアーの様な静粛な曲である。ここで彼のフィドルは消え入る寸前の蝋燭の様な繊細さで音を綴るのだ。一寸クラシック的でもあるけれど独特の滑らかなツヤも実に美しい。うーん、この辺の味わいはたまりません。彼はカパー・ケリー、オシアン、タナヒル、アイロン・ホースといったバンドの元メンバー達と共に新グループのCANTERACH に参加していて近くレコーディングもする予定とか。これからの活動がますます楽しみだ。


422 : ONE (FECD153)

  妙な名前(422がバンド名)だが、これは99年のBBC ラジオ2のYOUNG FOLK AWARDを獲得したという男女5人のアコースティック・トラッド・インスト・バンドである。確かに若い。メンバーと楽器はEMILY BALL(FIDDLE)、SOPHY BALL(FIDDLE,FOOT-PERCUSSION)、JOEY OLIVER(WHISTLES) 、SAM PIRT(PIANO-ACCORDION) 、IAN STEPHENSON(G)なのだが、この内3人がまだティーン・エイジャーなのだ。彼らはノーサンバーランドやニューキャッスル、ヨークといったところの出身だが、その音楽性は多彩でアイルランドやシェトランドを始め、フレンチ・カナダやスウェーデン、デンマーク領フェアロー諸島の曲と次々と聴かせてくれるのだ。その音は勿論若々しいが、走り過ぎない的確なリズムや、全般に奇をてらう事のない素直なサウンドに好感を持った。実に端正な音のバンドである。正直なところやや優等生的にこじんまりと纏まり過ぎている感じもしないではない。しかし、彼らは各地の伝統音楽に敬意を払いつつ、実に楽しみながら演奏している様子で、無いものねだりをせずに虚心に耳を傾ければそれが伝わってくる好盤と思う。個人的には特に"THE SHETLAND KLEZMA SET"と題されたシェトランドとスウェーデンのチューンのメドレーなどが独特のリズムが面白く印象的だった。ただ、それにしてもオリバーの自作のフルート・ソロの"THE CURLEW"の枯れた味わいを始め、ボーイズ・オブ・ザ・ロックのナンバー"CALLIOPE HOUSE"のひょうひょうとした味わいなど、一部の曲は彼らの歳にしては余りに「老成」しているのではないだろうか(これは凄い事なのですけれどね)。もちろんギターやアコーディオンが煽り立てる"BIG JOHN McNEIL'S" の様な元気一杯の曲だってあるのだが、個人的には本盤ではそうした「元気曲」よりも寧ろ「枯れ曲」の印象の方が強かった。彼らはこれからどうなるのだろう?今後に大いに注目したいところだ。


99年11月新作レポート
フェルサイド・レーベルから続々と登場の注目の新譜をこれから出来れば定期的に少し詳しくご紹介します(独断と偏見をもって、ですが)。なおこれらのアルバム は英国本国でリリースされた直後のもので、今はまだミュージックプラントへのオー ダーは出来ませんが、皆さんからのリクエストが集まれば、今後ミュージックプラントから国内リリースされるでしょう。是非皆さんの声をお寄せ下さい。  3 NOV.'99 白石和良 
SEASCAPE
HUGHIE JONES(FECD147) 
50年代末から活躍してきた英フォーク界の重鎮が「海の歌」を特集した強力な新 作。ヒュージー・ジョーンズは60年代の英国で広く支持を集めたフォーク・コーラス ・グループ、スピナーズの中心メンバーだったシンガーで、近年はソロで活躍。フェ ルサイドからは既に"HUGHIE'S DITTY BAG"('92) がリリースされていた。

さて本作だが、スピナーズの同僚ジョン・マコーマック(double bass,vo)や、通 好みのアングロ・コンサーティナ・プレイヤーのブライアン・ピーターズといった仲 間達を従えて、コクとメリハリの効いた歌唱をたっぷりと堪能させてくれる。その数 なんと全25曲。「海賊」「女性」「アメリカ」「英国海軍」といった幾つかのサブ・ ジャンル毎に自身の手による解説が付されているが、要はシー・シャンティ(船の上 での作業歌)から海に関するバラッドまで良く知られた(広い意味での)海のトラデ ィショナル・ソング(ヒュージーはソングライターとしても知られるが本作はトラッ ドのみ)をごっそり集めたもので、こうなるとこのジャンルでは、先に待望のCD化( フェルサイドではないが)がなされたジョニー・コリンズや、古くはスタン・ヒュー ジルなどなど「海の歌専業の強者達」と激突する事になる。しかしヒュージーの本作 はそのストレートな歌唱で強者達に一歩も引けをとらない。いやこんな言い方はこの 大シンガーに本来失礼なのであって、リバプールを本拠地にしたスピナーズ自体が海 の歌を一つのウリにしていたのだ。とはいえそのスピナーズというのは一部ではフォ ーク界のAORと言われた面もあったので、もしや本作もイージーリスニング的なサウンドではと思われるかもしれないが、フェルサイドがそんな軟弱なアルバムを作る 訳がない。

お馴染みの"SALLY BROWN" などのシャンティは硬派一色のコーラス付きで歌われ ていて、まず完璧だがそれ以上に無伴奏ソロで歌われる"HENRY MARTIN"とか"VAN DIE MEN'S LAND" といったバラッドの震えの来るような素晴らしさはどうだろう。単に硬 質なだけではなく人生の襞を感じさせるような味わい深さで、ハードコアなトラッド ・ファンを思わずにんまりとさせてくれる。これこそ年季の勝利というべきか。全般 に全力投球のシンギングも良いが、"BANKS OF THE BANN" の美しいメロディーを使っ た"BLOOD ON THE ICE"などで聞かせる一歩力を抜いて余裕で聞かせる歌がまた絶品な のだ。サウンドについて言えば、仲間達と楽しくやっている曲でも60年代的な単純な シングアウト・コーラスという感じではなく、ルーラルな英国トラッド・フォークの 音に仕上げられているのも流石このレーベルらしいところ。海の歌云々の前提を別にして広く聴かれて欲しい近年の傑作。


BEYOND THE RED HORIZON
MARTYN WYNDHAM-READ & NO MAN'S BAND(FECD146) 
60年代から素晴らしい喉を聞かせてきた大ベテラン、マーティン・ウィンダム・ リードの待望の最新作。待望のと言ったって既にフェルサイドだけでも3作もあるじ ゃないか ("MUSSELS ON A TREE","SUNLIT PLAINS","BENATH A SOUTHERN SKY")と言わ れそうだが、世界中に星の数ほど存在するフォーク・シンガーの中で、この人くらい 歌の上手い歌手はそうざらにない。言い方を変えれば、リードほど歌の一言一言を丁 寧に歌い綴ってゆく様な歌手は他に類が無いのではないかと思う。彼自身は英国人だ が、長らくオーストラリアに在住していた事があり、現地のフォークの発展に多大な 尽力をしたし、彼自身もオーストラリアの歌をずっとオハコにしていて英国でオース トラリアン・フォークを広めた中心人物でもある。ついでに筆を滑らせれば、本国( オーストラリア)のシンガーでも彼ほどの歌でオーストラリアン・トラッドを聞かせ る歌手は殆どいないと思う。しかしそれでもある時彼はこう語った。「オーストラリ アのフォーク・ミュージックはオーストラリアの人達のものだから(英国人である) 自分が云々すべきものではない。」彼とはこういう人なのである。本当の紳士とはリ ードの様な人の事を言うのだろう。

前置きが長くなったが、素晴らしかった前作"BENATH..." に続くこの最新作は彼 の絶品の喉と人柄が全面に表れたもので、掛けがえの無い1時間をリスナーに提供し てくれる。彼の諸作は大胆な変化とは無縁なのだが、それでもバンド名義になってか らの2作目に当たる本盤では、バックの音も更に一層の安定感と厚みを増し、彼も心 から安心して身を委ねている様な印象を受ける。今回のバンドはアイリス・ビショッ プ(accordion,duet consertina) 、ゲイリー・ホルダー(bass)、イアン・ホルダー(a ccordion) 、テリー・ポッター(mouth organ) という(勿論)オール・アコースティ ックで控えめなサウンドだが、それが実に良い。本作での、コンサーティナの波の様 な音の上に伸びやかに「たゆとう」リードの歌を聴いていると文字通り時と場所を忘 れてしまいそうになる。さて本作の曲もいつもの様にオーストラリアものが中心を占 めているが、彼の近年の新しい試みもある。オーストラリア最大の民衆詩人ヘンリー ・ローソンの詩に曲を付けた歌(これはオースラリアン・フォークの一ジャンルにな っている程だが、それでもローソンの詩の大半は曲が付いていないという)を幾つか 取り上げているのだが、その内、"GENOA" 、"DOWN THE RIVER"、"POSSUMLAND"といっ た曲はリード自身が音楽を作曲したものなのだ。そして今回は更にローソン以外の詩 に作曲した曲もある。"THE BLACK SWANS" 、"SILENCE AND TEARS" がそれで、前者は ローソンと同じくオーストラリアの「ブッシュ詩人」のエドワード・ハリントン作、 後者は英国ロマン派詩人のあのバイロン作の詩に彼が曲を付けたものなのだ。詩人の 作品に自作のメロディーを付加して歌うという試みは実は彼は前作でも披露していた のだが、今回はその発展と言えるものだ。この種の前例というと、キップリングの詩 を多く歌ったピーター・ベラミーを思い出すが、ここでのリードもこの難しい仕事の 希有な成功例と言えるだろうと思う。何よりも彼の、言葉を置いてゆくような歌い方 にぴったりと一致した全く無理の無い音の流れが快い。(特に同時に歯切れの良い鋭 さを伴った"THE BLACK..."は最高だと思う。)

現代のソング・ライターの作品も4曲あるが、特に第二次大戦でのソンムの村の 激戦を綴った"FROM SEVERN BY THE SOMME"(MARTIN GRAEBE作) やコォーンウォールか らオーストラリアに移民した炭鉱夫達の心情を歌った"SHINING DOWN ON SENNEN"(MIK E O'CONNER作) の歴史ものの歌が印象的だ。勿論トラッドの名曲もある。ここでは特 にイングランドの名曲"THE CONSTANT LOVERS" や"THE BANKS OF CLAUDY" がリスナー を酔わせてくれるだろう。同じく絶品の歌と言っても別項のヒュージー・ジョーンズ の硬質な歌とはまた全く違う素晴らしさで、包容力に溢れた暖かい歌である。

いかにもオーストラリアン・フォークらしい楽しいノリの"TOMAHAWKING FRED"( 羊刈りのチャンピオンを歌ったトラッド)もあるがこれは例外的で、本盤はいつにも 増してひたすら「たゆとう」歌の波の連続。これに深い感動を感じるか、はたまた退屈を覚えるかは聞き手次第だが、著者としては駄作の無いこの偉大な歌手にしても最 高級の傑作としか言いようがない。


THE OLD DUHHAM ROAD
JEZ LOWE(FECD34) 
今回の別項のアルバムは全て英国フォーク界のビッグ・ネーム達ばかりだが、本 盤のジェズ・ロウこそは、本フェルサイド・レーベルが世に出したシンガーで、その 彼の初期の作品にして代表作と言っても良い名盤LPのCD化が遂に実現した。LP "THE OLD DUHRAM ROAD"は83年の作品(セカンド・アルバム)だが本CDにはその全11曲だけ でなく、80年のデビュー盤LP"JEZ LOWE"から5曲、そして"THE OLD DURHAM.."の制作 時に録音されながら未発表のままになっていた1曲までが加えられた形になっている。

プレイボタンを押すとハーディ・ガーディ(名手ジェイク・ウォルトンによる) やハーモニカやシターン(共にジェズ自身)のルーラルなサウンドに乗ってなんとも 心地よいワルツが流れてくる。この気の置けない親しみやすさこそがフェルサイドの 音楽なのだ。しかし気の置けないサウンドをバックに滑らかな歌を聴かせるジェズの 詩は決して甘口のものではない。それは例えば、職を求めて各地を彷徨う北国からの 出稼ぎ労働者の歌であったり、炭鉱夫を早朝に起こす苦行の任務についた男の嘆きで あったりするのだ。こうした(特に地元の炭鉱を中心にした)労働者達のハードな日 常と彼らの誇りを彼はしかし、決して観念的にならず、また安易な私見も挟まずに淡 々と具体的な描写で綴ってゆく。これはトラディショナル・ソングの伝統を継いでい る事に他ならないだろう。ここには"HARD LIFE" や"CURSED BE THE CALLER"といった 彼の忘れられない名曲が詰まっているのだ。

本盤にはまた何曲ものトラッドの名演も含まれている。バンジョーの素晴らしく 味のある弾き語りを聴かせる"FOGGY BANKS" (ニュージーランドのトラッド)がまず 良い。このバックは先のジェイク・ウォルトンで、バンジョーにハーディー・ガーデ ィーのドローン音を絡ませるというアイデアは脱帽ものだ。そしてバート・ヤンシュ やドック・ワトソンなどでお馴染みの"PRETTY SARO" の繊細なダルシマーの弾き語り や、これも良く知られた"WHEEL OF FORTUNE"の何ともアット・ホームな味わい(一時 バトルフィールド・バンドなどにも在籍していたジム&シルビア・バーンズ夫妻がサ ポートしている)も最高だ。この2曲はデビュー盤からのもの。更に1曲の未発表曲 もトラッドで"THE TIME FOR LEAVING"。これは一人でダルシマーやシターンの弾き語 りを聴かせてくれる。

冒頭でフェルサイドがジェズを世に出したと書いてしまったが、同時にこの現代 英国フォークの逸材が居たからこそこのレーベルも世に広く知られるようになったの である。本盤はそのジェズとフェルサイドを代表する永遠の一枚である事は間違いない。


THE SONGS & MUSIC
BAGPUSS(SMALLFOLK SMF1) 
『バグパス』というのは70年代の英国の児童向けTV番組の名前らしいが、フェル サイド傘下のスモールフォークから登場した本盤はその音楽を担当していたジョン・ フォークナーとサンドラ・カーによる楽しいデュオ・アルバム。分かりやすく言えば 「歌のお兄さんとお姉さんのアルバム」という事になるのか、(主として)児童向け のアルバムの形になっているのだが、単純にお子さま向けの音楽として見逃せるもの ではない。何と言ってもこの二人がデュオ名義でアルバムをリリースするのは69年の ARGO盤以来の筈。実に30年ぶりの名デュオの復活なのだ。最近はナンシーの母親とし て知られる? サンドラの澄みきったキュートな声、一時はドロレス・ケーンのパート ナーとして知られたジョン・フォークナーのイブシ銀のような声、この絶妙な取り合 わせで綴られる数々のトラッドは文字通り男女デュオによる英国トラッド・フォーク のお手本と言える。そしてサウンドもたった二人だけとは思えない様な多彩さ。ジョ ンはギター、フイドル、マンドリン、ブズーキからバグパイプまでこなすし、サンド ラもギター、コンサーティナ、ダルシマー、オートハープを弾いている。全て超絶テ クニックいう訳ではないのだが、逆にこの手作りの味がなんともいい。これをキッカ ケに次には大人向けのアルバムを作って欲しいけれど、それまでは皆で本作を聴きましょう。 
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