白石和良氏の監修のもとご紹介する英国湖水地方カンブリアのレーベル、
FELLSIDE RECORDINGSシリーズ
FELLSIDE RECORDINGS 
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●白石和良×大島豊 連載読み物 
ナンシー・カー&ジェームス・フェーガン「スティーリー・ウォーター」(MPFR011)
「Steely Water」(MPFR011) のライナー中でうっかりA.L.ロイドをオーストラリア「育ち」とす べきところをウッカリ「生まれ」などと書いてしまい、菱川英一さんからご指摘のメ ールを頂きました。お詫びとお礼を申し上げます。この辺の事は最近の記事にもある ようですが、勿論珍しい事実ではなくて例えば1956年の米国RIVERSIDE盤にもハ ッキリ書いてありますので言い訳のしようもありませんね。菱川さんも重要な人物と 書かれていますが、私にとっては最愛のシンガーの一人だけに全く許しがたい(自分 が)不注意でありました。因みにロイド氏の生涯は、ごく大雑把に言うと1908年 ロンドンの生まれですが14才の時に両親を亡くし、翌年にはオーストラリアに移住 、ニューサウス・ウェールズでヒツジの関係の仕事などにつきながら、同地でフォー クソングに目覚めて、ブッシュ・ミュージックを採集したりした後、1930年代に 英国に戻り、クジラ漁の漁船で働く一方(例のレヴァイアサンですね)で、失業期間 中には英国図書館で出来る限りのフォークソング関係の図書を読み漁った..そして この頃BBCの捕鯨漁船のドキュメンタリーに関り、戦後はPICURE POST紙のジャナーリ ストとして仕事をした後にフル・タイムのフォーク・ソング歌手/収集家/研究家に なった...というような訳なのですが。

2000年1月4日  白石 和良


BANKLANDS The Story of Fellside Recordings FECB 100/MPCD014, 1994 
 フェルサイドの存在に気がついたのがいつごろだったか、今ではもう記憶も さだかではありません。 おそらくある程度自由にレコードが買えるようにな った70年代末のどこかではあるでしょう。気がついてみると好きなレコードの 何枚かにあの貝の化石のマークがあったのでした。それは例えば Brian Dewhurst であり、Barry Skinner であり、Dave Walters であり、Steve Turner であり、そしてやはり Jez Lowe のアルバムでありました。

 ジャズにブルーノートやリヴァーサイドがあるように、ブリテンの伝統音楽 =フォーク・ミュージックやそれをベースとした音楽(その頃わが国では「ト ラッド」または「ブリティッシュ・トラッド」と呼ばれていました)にも、ト ピックやトレイラーがあります。トピックは50年代から、トレイラーは60年代 末から、それぞれに活動を始め、この手の音楽の普及・拡大に大きな足跡を残 しています。
 70年代後半、ブリテンのトラディショナル・フォークは大いに盛上り、お隣 りアイルランドやブルターニュ、あるいはフランスをはじめとする大陸をも巻 込んで、その支持層を急速に広げました。おそらくはそれの原因ともまた結果 ともなる形で、ブリテン各地に専門レーベルがいくつも勃興しました。それは 多かれ少なかれ、ローカルなミュージシャンや音楽の嗜好を反映していました。 イングランドでは Dingle's、Celtic Music、Black Crow、Greenwich Village といったレーベルです。アメリカではグリーン・リネットが産声を上 げ、スコットランドでは Temple や Springthyme、そしてやや遅れて Greentrax が現われます。ウェールズの Sain から地元ミュージシャンの強力 なアルバムがリリースされはじめるのもこの頃でした。
 イングランドの上記レーベルは現在、いずれも姿を消したか、活動休止状態 です。もちろんその代わりにCD時代になってまた新たなレーベルが活発にな っていますが、その中でほとんど唯一、コンスタントに活動を続け、渋いなが らもきらりと光るアルバムを産出しつづけてきたのがフェルサイドでありまし た。
 今回試しに数えてみたら、手元にあったフェルサイドのLPが58枚。一番最後は Jez Lowe & the Bad Pennies の BRIEFLY ON THE STREET (FE079、現在 はCD化されて FECD079) でした。79枚中58枚というのは、一つにはこのレー ベルの息の長さとともに、いかに好みのアルバムが多かったかということの現 われでもあるでしょう。もちろん途中からはフェルサイドというレーベルの信 用だけで買っていたことがあるにしてもです。
 なぜ、そんなに好きになったか。ブリテン、特にイングランドのトラディシ ョナル・フォークに対するぼくの嗜好の核心を満足させるアルバムを数多くリ リースしてくれたからです。ひとことで言えば、優れたシンガー/ギタリスト のアルバムです。ぼくの原点はニック・ジョーンズであり、ディック・ゴーハ ンであり、ヴィン・ガーバットであり、デイヴ・バーランドです。マーティン ・カーシィも早くから聞いていましたが、「トラッド」に触れはじめた頃に惚 れこみ、もっとも心にかなったのはこれらトレイラー・レーベルのミュージシ ャンたちでした。フェルサイドはそのトレイラーの、イングランドにおけるも っとも忠実な後継者だったのです(トレイラーはイングランドだけでなく、ス コットランドやアイルランドもカヴァーしていました)。
 トレイラーはトピックの録音技師でプロデューサーだったビル・リーダーが、 自らのヴィジョンを実現するために立ちあげたレーベルでした。優れた若い世 代のミュージシャンをメインにとりあげたこともありますが、トレイラーのア ルバムはいずれも優秀な録音技師だったリーダーのレーベルらしく、録音がす ぐれていることでも大きな貢献をしています。録音技師としてのリーダーの業 績でもっとも有名なのはバート・ヤンシュのファーストの録音でしょう。小編 成の、アコースティックな楽器をバックにした人間のヴォーカルを録らせたら、 まず当代随一といっても過言ではないと思います。  フェルサイドもまた、ポール・アダムスの録音への関心が元になって生まれ ています。かれも基本的に小編成、電気楽器はまず使わず、人間の歌を主体に した音楽を対象にしています。機材も最小限。設備のそろったスタジオではな い場合もしばしばです。そして、できるかぎり、より若い世代、伝統の継承だ けでなく、拡大にも意欲を持つ人びとをとりあげています。加えて、控えめな がら、基本は押えたジャケット・デザイン。金ばかりかかったデザインのため のデザインではなく、センスよりは品の良さを感じさせます。そして最小限の 基本は守って全体としての統一感をもたせているので、見慣れるとジャケット を見ればフェルサイドのものとわかるようになります。これもまたトレイラー の衣鉢でもあります。
 前置きが長くなりました。この BANKLANDS は、フェルサイドのLP時代の 経歴を音でたどったアンソロジーです。フェルサイドはいくつもすばらしいア ンソロジーを出していますし、これはまたかれらにとっても特別なアルバムで ありましょうが、ぼくにとっても特別なアルバムとなりました。ことに中盤、 [05]のロイ・ハリスあたりから[18]のスティーヴ・ターナーまでは、聴くたび に万感胸に迫る、といってもおおげさではありません。初めて聞きとおしたと きには、トラックが進むにつれて、目頭がだんだん熱くなり、途中からほとん どうるうる状態でした。まだまだ時間の余裕があり、今のようにアルバムが出 過ぎて困ることもなく、気に入ったアルバムをとことん聞込めた時代であり、 しかも優れたミュージシャンが輩出した波に当ってもいました。だから、ぼく の人生でイングランドのレコードにもっとも入れこんで聞いていた時代でもあ りました。まあ、要するに「青春の想い出」であります。
 そういう個人的な感傷は別にしても、さすがに77枚のアルバムから選びぬい ただけあって、曲にしても演奏にしても粒よりのものがならんでいます。では、 一曲ずつ、聞いていくことにいたしましょう。

01. Terry Doherty "The teller of tales"  記念すべきレコード番号1番。1976年春のリリース。北イングランドのローカルなシンガー・ソング・ライターであるケリィ・ドハティのデビュー作でも あり、おそらくは唯一のアルバム。現在はイングランド北東部で優れたギター 職人である由。曲はドハティのオリジナルでアルバムのタイトル曲。地元の「 語り屋」、ストーリーテラーを歌った歌。
 残念ながらこれをぼくは持っていません。ここで初めて聞きました。ギター が前面に出たミキシングで、ヴォーカルにもややエコーがかけられていて、ち ょっと弱い感じです。あるいは録音技師としてのポール・アダムズの趣味が思わず出てしまったか。
 諸手を挙げて傑作!と呼びたくなる曲でも演奏でもありませんが、どこか人 懐こいところがあって、憎めない。おそらくアルバム一枚を何度か聴いている と、すっかり気に入ってしまう曲が一つか二つはありそうです。
 処女作には作家の全てがある、とよく言われ、またそれはあてはまることが 多いですが、レーベルにも同じことが言えるのかもしれません。永年つきあっ ていると離れられなくなるスルメ・レーベル。
 このアルバムが発表された1976年は一方、トレイラーからニック・ジョーン ズの NOAH'S ARK TRAP、ピート&クリス・コーの OUT OF SEASON, OUT OF RHYME、トピックからジューン・テイバーのソロ・ファーストである AIRS & GRACES、さらにはデイヴ・スウォブリックのほぼ十年ぶりのソロ、SWARBRICK、 そして長い間お蔵入りだったアルビオン・カントリー・バンドの BATTLE OF THE FIELD がリリースされ、やや沈滞気味だったブリテンのトラディショナル ・フォークの世界が一気に息を吹返した年でもあります。もちろんこれはブリテンのみに限ったことではありませんでした。
 そしてぼくはこの年、初めて東京・渋谷のロック喫茶『ブラックホーク』の 扉を押し、ブリテンとアイルランドのトラディショナル・フォークの世界へと 本格的に引きずりこまれたのでした。

1999年11月2日 大島 豊


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