「リネウス・ヴェーセン」
   Linnaeus Vasn
(リンクがある曲は試聴できます)

カール・リネウスについて特設ページを作りました!

1.  Carl Linnaeus Polonaise by Gabriel Hook
とにかくカッコよい! 1曲目で完全ノックアウト。伝統音楽に聞こえない。オリジナルみたーい!

2. Skumpolska  after Johan Dahl, Boaberg    (Dusky/odd Polska)
めっちゃヴェーセンらしい。でも伝統音楽。

3. Linnaeus Langdans / Kor i Lunken   (Linnaeus Long-Line Dance)
ある意味この曲が一番かっこいいかも。ミッケによるオリジナル+伝統音楽のトラック。

4. Grevilius' Pollonaise
哀愁系! アルバムの中で人気曲になりそう。しっかしカッコいいよなぁ。

5. Erik Bohlin's brudpolska   (Erik Bohlin's Wedding Polska )
これはサクッとやった感じがする。レイドバックぶりが良い感じ。

6.  Luringen's Polska   (Luringen sometimes means the cheater)
これも時間かけてない感じがする。パーカッションとニッケルハルパのデュオだと思う。
しかし、ウマイ。ほんとウマいなぁ、ウーロフは。

7.  La Marche/ Carl XII's marsch vid Narva
ハードです。かっこいい。

8. Tiliandermenuetter  (Tiliander Minuets)
これもある意味めちゃくちゃヴェーセンっぽい。
全曲オリジナルの「ヴァルデンス〜」とかに入ってても全然違和感ない。でも伝統音楽(笑)

9. Polonaise C-moll  (Polonaise in C-minor)
哀愁系。

10. Soderbloms Polska after Carl Soderblom, Nybron
これはビックサウンドで、ナイスな感じ。ミッケが遊んでいる。
っていうかこのアルバム、全部通して、真面目にやっているのウーロフだけ。
あとは全員遊んでいる。

11.  Klippings handskar (Klipping's Gloves)
実はこういうレイドバックした感じのヴェーセンって大好き。
個人的好みでは、こういうのが好き。
でも最後の部分はいらなかったよーな気も?(笑)

All tracks arranged by Vasen.
All tunes are traditional except Linnaeus Long-Line Dance, composed by Mikael Marin.






 
音楽はまったく苦手……

スウェーデンのフォーク・グループ、ヴェーセンが、カール・リネウス[*訳註1]の知られざる音楽遺産を、いま解き放つ。

「リネウスは、音楽がまったく苦手であった」――
ずいぶん酷な断定があったものである。リネウスと音楽の関係について語るとき、歴史家たちは決まってこの表現を使ってきた。しかし、本当にそうだったのだろうか? 少なくともリネウスは、ダンスならちゃんと踊れたのだ! その定義はあまりに漠然としているにせよ、「音楽的才能」というもののなかで、リズム感が重要な一部を占めていることは疑う余地もない。リネウスは、調査旅行の途上であっても、ダンス関連の催しがあると聞けば勇んで参加した。リネウスの教え子だったデンマーク人、ヨハン・ファブリシウス[*2]は、師の自宅があったハンマルビー郊外の農村で催されるダンスの集いを、師の家族だけでなく弟子たちも「みな心から愉しみにして」おり、全員がダンスに興じたことを書き残している。踊られたダンスは主にメヌエットとポルスカで、ときおり、ジルバやフォックストロットに相当する18世紀当時の流行が混入してきたのだが、「それでもみな大いに愉しみました」。リネウスが好んで踊ったのはポルスカであり、「ポルスカにかけてなら、先生はわたしたち若僧よりずっと上手でした」。

 また、植物に対するリネウスの旺盛な知識欲が、彼の親族が有していた音楽的ルーツに関係していたと知れば、さらに驚かれるかもしれない。リネウスの父親、ニルス・インゲマルソン・リネウスのおじに、スヴェン・ティランデルという男がいた。Vittaryd教区Jonsboda村に生まれたティランデルは、音楽家としてドイツ北部を拠点に活動したのち、Pjatterydの教区牧師となり、その後は死ぬまで同地を離れることがなかった。ティランデルは進歩的な実務家で、教区の運営効率を大きく向上させる一方、広大な植物園を創設した。この植物園を、リネウスは父と一緒にしばしば訪れ、父子が住むステンブルーフルトに造る植物園のためのヒントを得ようとした。

 ティランデルは、自らの植物園を建設するにあたり、ドイツ北部の港湾都市ブレーメンに住む音楽仲間たちから多くの種子を調達した。こうして、音楽と植物学が手に手を取って前進しはじめる。新たな種子が送られてきた箱のなかには、ヨーロッパ大陸で流行している最新のポルスカの楽譜も、詰めこまれていたからだ。集めた楽譜の一部を彼はパンチシートに変換し、愛用していたバレル・オルガンにセットした。ハンマルビーの自宅で開くパーティーのため、リネウスがこのオルガンをもらい受けたのは、1750年代のことである。

 カール・リネウスが熟達したポルスカ・ダンサーだったという証言は、別の方面からも立証できる。彼の義兄弟、ガブリエル・ホックが、彼に捧げる曲をいくつも残しているからだ。こうしてわたしたちは、18世紀に開花し現在へとつづくダンスと音楽の伝統のなかに、招き入れられてゆく。このアルバムでヴェーセンが提示する楽曲は、どれもカール・リネウスに直接的な繋がりをもち、片足で18世紀を、もう一方の足で現代をしっかり踏みしめているのだ。

[*訳註1: カール・リネウス] 
カール・リネウスは、「分類学の父」と称されるスウェーデンの科学者、カール・フォン・リンネ(1707-1778)の本来の名前。学者として名を挙げた1757年、貴族に除せられると同時に得た姓がフォン・リンネだった。2007年はリネウス生誕300年にあたり、母国スウェーデンを中心に多くの行事が計画されていて、ヴェーセンのこのアルバムもそんな行事のひとつに併せ制作された。なお、ヴェーセンというグループ名には"spirit"などの語義があり、本作の原題『Linnaeus Vasen』は「リネウスの精髄」くらいの意味になる。

[*2: ヨハン・ファブリシウス]
ヨハン・クリスチャン・ファブリシウス(1745-1808)は、ユトランド半島南部、今は夏のフォーク・フェスティヴァルで世界的に知られるトネの町に生まれた科学者。コペンハーゲン大学を卒業した1762年、スウェーデンのウプサラに旅行し、リネウスの弟子となってそのまま同地に留まった。リネウスの薫陶を受けたのは二年ほどで、その後、主に昆虫の分類で業績を残している。

訳: 茂木 健

 


―訳者による追補―

 上に訳出した各曲解説からも容易にわかるとおり、ヴェーセンの面々は現存する資料を博捜し、リネウスとの関係性を明確にしたうえで本作の各曲を選定していった。当然、[3]を除きすべて伝統曲で、自作を重視してきたヴェーセンのアルバムとしては異色の部類に入るだろう。
 ブリテン諸島のトラッド(伝統音楽)系のアルバムを聴きこんできた人なら、本作の各曲解説を読んでも、よくぞここまで調べた、と感心することはまずあるまい。伝統音楽に本気で取り組むミュージシャンは、誰もが多かれ少なかれ研究者の素養をもっており、埋もれていた曲や歌を自ら発掘したときは、その由来などをリスナーに向け説明するのが半ば定例化しているからだ。

 しかし――。
 このような良き「伝統」を継承しているくせに、アーティスト本人による解説と収録された音楽の印象が、ここまで懸隔しているアルバムは極めて珍しい。CDを聴くまえにこの解説だけ読めば、たいていの人がこう考えはずだ――ヴェーセンは、リネウスが聴いたであろう二百数十年まえの原型に近いヴァージョンを、18世紀当時のスタイルで演奏しているのかな?――。ところがスピーカーから聴こえてくる[1]の冒頭は、ギター、パーカッション、ヴィオラによる強力なシンコペーションの音塊の上を、ポリリズム風に絡みながら滑走してゆくニッケルハルパのひなびた旋律。要するに、ヴェーセンが最も得意とする前衛ジャズ/ロックの手法を応用したリズム処理であり、生真面目に解説されている原曲の本来の姿を忠実に復元しているのは、多分ニッケルハルパが奏でる主メロだけという過激な音楽だ。

 ほかの各曲でも、ヴェーセン節は次々と炸裂する。おまけに、2003年の『トリオ』以来三人で活動してきたかれらが、七年ぶりにパーカッションを参加させたカルテットとなっているから、リズムだけでなく低域も増強され、音場感がいっそう広がった。その広くなった音世界のなかで、のびのびと羽根を伸ばしているのがミカエル・マーリンのヴィオラだ。特殊な奏法を駆使し、SEに近い音を後景に散らすことなら旧カルテット時代も実践していたけれど、本作のヴィオラは曲全体のコンテクストからひょいと離陸し、圧倒的な演奏技術を全開にしながら調性を度外視したノイズ成分だらけの短いソロ(つまりほとんどフリー・ジャズ)へとかっ飛んでゆく。その典型として、[2]の3分50秒、そして[7]の4分40秒を挙げておこう。

 スウェーデンの伝統音楽に精通していれば、本作のもつ歴史的重要性を実感できるのだろうが、少なくとも訳者は、聴いているうちにリネウスのことなどきれいに忘れ、パーカッションをゲストに迎えたヴェーセンの尖った新作として愉しんでいた。なお、関係者から入手した内部情報によると、かれらは本作をわずか四日で録音したという。いつものことながら、なんてやつらだ。
 


Photographs by Mia Gustafsson


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