大島豊のアイリッシュ・ミュージックの森 
ベスト・アイリッシュ・アルバム2000

 Andy Irvine  WAY OUT YONDER; (own label), 2000 
 Brian Rooney  THE GODFATHER; Racker Records, 1999 
 Cran  LOVER'S GHOST; Black Rose Records, 2000 
 Garry Shannon  LOOZIN' AIR; BMM, 2000 
 Kevin Burke  IN CONCERT; Green Linnet, 1999 
 Mary Custy with Stephen Flaherty  AFTER 10:30; own label, 2000 
 Michael McGoldrick  FUSED; Vertical, 2000 
 Mick Hanly  WOODEN HORSES; Doghouse Songs, 2000 
 Susan McKeown  LOWLANDS; Green Linneet, 2000 
 Various artists  CORK FOLK FESTIVAL ARCHIVE; CFFCD, 2000 

  テクノロジー万歳! インターネットはやはり大人の遊び場である。わが国政府のいう
 IT革命というのは、実はみんなでインターネット通販しましょうというだけのことだ
 が、それでどこが悪い。聞きたいCD、買いたいCDは増える一方なのだから、みんなど
 んどん買って聞きましょう。ミュージシャンが来れば、ライヴを体験しに行きましょう。 
  というわけで今年聞いたアイルランド産やその関連のCDから、これはいいと膝を叩い
 たものを10枚を選んだのが上のリスト。もちろん他にもたくさんあるが、ふるい落とすの
 が楽しいのだ。順番はアーティストの名前のアルファベットに従う。 
  この中で異色といえば伝統音楽とはほとんど関係ない点でミック・ハンリィのアルバム
 が一番だろう。とはいえ、バックにはミック・キンセラ、ジョセフィン・マーシュ、トー
 ラ・カスティなども入って、しっかり盛りたてているのが嬉しい。とりわけキンセラのハ
 ーモニカがいい。盛りたてられるハンリィ自身も充実というか成熟というか、悠々たるも
 の。おなじみの "The crusader" もやっていて、これはソロのライヴ録音だが、これまでのど
 のヴァージョンにもまして心にしみる。 
  デビュー作が2枚。ブライアン・ルーニィとギャリィ・シャノンで、片やベテラン、片
 や若手と対照的に並んだのは意図したわけではない。むしろ宿命であろう。ルーニィはリ
 ートリム出身でロンドン在住のフィドラー。遅すぎるぐらいのデビューだそうだが、こう
 いう音は若者には出せない。滋味といいたくなるくらいの豊饒なフィドルだ。一方のギャ
 リィはまことに斬新、遊び心にあふれたフルート。ダブル・ベースやギターは90年代の音
 だ。いや、このアルバム全体はむしろ21世紀の音だろう。 
  モダンなフルートといえばマイケル・マクゴールドリックだが、フルートそのものより
 はバンドとしての組立てやアンサンブルのアレンジは今のところ先頭を突走る。とりわけ
 ホーンを入れた「ビッグ・バンド」。そしてここでもカラン・ケイシィの艶やかでみずみ
 ずしいヴォーカルに魂が融ける。 
  女性ヴォーカルといえばニーヴ・パースンズとならぶうたい手であるスーザン・マッキ
 ュオンは今年最大の「発見」(ニーヴをはずしたのは仕事で関っていたからで、他意はな
 い)。旧譜も含め、スケールの大きさ、うたの深さ、情感の緻密精妙、これまた唯一無
 二。中でもこの新作はその才能が十全に開花している。 
  同じことがメアリ・カスティのフィドルにもあてはまる。恰好の相棒を経て肩の力が抜
 けた分、音楽の味わいはまた格別。スーザンもそうだが、もう少し年がいけば「円熟」と
 呼びたいぐらいの豊潤な音楽だけど、こういう音楽をこういう若い人びとが聞かせてくれ
 るのが伝統の魅力だ。それに加えて熟したと言うにはためらわせる輝きが、むしろ抑えた
 ものであるが故に一層映える。 
  そう、円熟とはアンディ・アーヴァインにこそふさわしい。が、そのアンディの新作は
 そう言うにはやはりためらってしまう力のこもった、そして若者にこそふさわしい溌剌た
 る響き。ドーナル・ラニィとのデュエットでのライヴは、例えばルナサにも負けないエネ
 ルギーに満ちたものだった。スティーヴ・クーニィ、ダーモット・バーン、コーマック・
 ブレナックといったバックも強力。ロリーナ・マッケニットがメロディをつけた "The
 highwayman" の圧倒的歌唱にはただ聞きいるのみ。 
  この中で一番の円熟といえばクランかもしれない。前作でシェル・タルミーのプロデュ
 ースを受けたことで従来のアイルランドのバンドになかった洗練さを身につけた成果。こ
 ういうものを聞くと、この形こそアイルランド音楽の理想のバンドとすら思えてくる。 
  まあしかし、伝統音楽には本来「円熟」というのはあり得ないものかもしれない。年齢
 を重ねるにしたがい音楽に深みを増しこそすれ、その姿勢においては一層ラディカルに、
 新たな地平を目指すことが強くなる。アンディもそうだが、ケヴィン・バークの進境には
 驚いた。この年齢の人に「進境」という表現 
 を使うのは失礼かもしれないが、このソロのライヴを例えばボシィ・バンドのライヴと聞
 き比べてみられよ。むろんボシィの価値は別にあるとはいいながら、フィドルの音はまる
 で別人。この艶、大胆さ、精緻、そして崇高。 
  残りの一枚は昨年20周年を迎えたフェスティヴァルの記念CD。過去十年にとりだめた
 録音からよりすぐったライヴ。一曲聞いては溜息をつき、2曲聞いては雄叫びをあげる。
 有名無名の名演ぞろいで、アイルランド音楽への入門はこういうものから入っていただき
 たい。 
  さてさて21世紀。アイルランドの音楽はますます元気だ。もちろん人間のやることであ
 る以上、問題は多々ある。しかし、どんな問題でも肥やしにしてしまうしたたかさとしな
 やかさとエネルギーを、アイルランドの音楽は備えている。この十年はそれを思知らさ
 れ、この音楽と出会えたことを天に感謝しつづけた十年だった。 
  世紀が変わったとてそこで人間が別の存在にがらりと変わるわけではない。歌はうたわ
 れつづけ、音楽は鳴りつづける。選ばれてしまったのだ、とことんつきあってやろうじゃ
 ないか。 

 2000年12月 
 大島 豊



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