大島豊のアイリッシュ・ミュージックの森 / 過去に掲載の記事
FIRST IMPRESSION 
"First Impression" のコーナーは、要するにCDを聞いての感想をご報告するもの。ま、CDを買ったりする際のご参考になればということです。実はニフティのトラッド部屋「ダンシング・パブ」(nifty:fwbeat:mes10)でしばらく前 からときどき思出したように書いてるもので、こことは二重投稿になります。それだ けでは失礼ですので、多少時差を置くのと、少し書換えたりするつもりです。 第一印象ですので、あんまり深く考えずに書いています。間違いもありますし、そ の後、評価が変わることもありえます。その辺はこうご容赦。 
○Mick Hanly LIVE AT THE MEETING PLACE
Donghouse Songs, CDDHCD1, 1998  

 コーク州ミドルトンにあるライヴ・スポット「ミーティング・プレイス」はハンリ ィのお気に入りのヴェニューで、あまりに気持ちの良さに想わず、「いつかここでラ イヴ・アルバムを作りたいねぇ」と口走ったものが、そのまま形になったアルバム。 1997年12月初旬の二日間、友人のギタリスト、フィリップ・ドンリィを相棒に、時に 若いシンガー、ニーヴ・キャヴァナをゲストにして、収録された13曲、70分。  
 ドンリィは生、電気持ちかえで、例によって味わい深い伴奏を聞かせ、キャヴァナ は若さいっぱいのヴォーカルでこれまた円熟したハンリィとあざやかな対照を見せて くれます。   
 とはいえ、このアルバムはあくまでもシンガー、そしてソングライターとしてのハ ンリィの見事さを証明するものでありましょう。カリスマという点ではクリスティ・ ムーアに一歩を譲るとしても、そしてその一歩がかなり大きいとしても、シンガーと してはポール・ブレディに匹敵するといってもおかしくない人であり、ソングライタ ーとしてもこれまたアイルランド屈指の人であります。それにしてはあまりにも過小 評価がすぎるというもの。代表作もほぼ網羅されたこのライヴで、まずはこの人の生 地に触れていただきたいものです。最小限の設定は、シンガーの実力の高さと歌の良 さを充分に引出しています。
 ライヴの成否はひとつには聴衆の反応であり、こうした距離の短い設定ではなおさらその比重は高まりますが、その点でもこれは理想的であったようで、例えば "Past the point of rescue" でコーラスをまるまる歌ってしまうのは、もはや聴衆 などというおとなしいものではありますまい。男性ばかりでなく、女性のファンもし っかりついているらしく、完全に演奏の一部です。
 なまじっかアイルランドにあってアメリカ的色彩が強いためか、見過ごされがちな 人ですが、無心に心を開いて聞けば、やはり類稀な音楽家に違いありません。
 とはいえ、やはりバンドよりも、こうしたシンプルな背景の方が映えることは確かです。

(11/3/99)


○Siobhan Skates & Rosemary Woods GO IT ALONE TOGETHER
Spring SCD 1033, 1995 bought from A.D.A. Distribution via mail order

 ジミィ・マカーシィやノエル・ブラジルなど、男性陣が目立つアイルランドのシン ガー・ソングライターですが、90年代に入ってここでも女性の進出がはっきりしてき ました。今度のフランシス・ブラックの新作(ソニーからのメジャー・デヴュー)で も、新しい女性ソングライターの作品をとりあげているようですが、自分で歌うこう した女性たちも確実に現れてきています。  
 といって、この二人の素性は今のところまるでわかりません。ご存じの方はご教示 を。買った動機は、このレーベルで、ここはカラム・サンズがやっているところで す。自分の作品や兄弟のものをリリースしていましたが、ここ数年、特にいわゆるシ ンガー・ソングライターのアルバムに力を入れているらしく、数ヶ月前、雑誌に載っ た広告を見て、まとめて注文してみました。その一枚がこれ。  Rosemary Woods はこれ以前にもう一枚、WALKING TOGETHER (SCD 1027, 1992) と いうアルバムがあります。未聴なので、聴いたらご報告します。  
 一聴して連想したのが、マクガリグル姉妹。もちろん音楽性は違いますが、姉妹の ように良く似た声と、微妙に歌作りの姿勢がずれていて、なおかつ親近感があるとこ ろはそっくりです。  
 ジェイムズ・ブレナハセット、リーアム・ブラドリィ、ロッド・マクヴィーといっ た実力はがバックにつき、ギターはキーラン・ゴスが弾いている(しかもほんとにギ ターだけ、コーラスもつけない)のですが、このバックはあくまでもバックで、ごく 控え目、ギターもほぼアルペジオに終始します。ぼんやり聴いていると、田舎の二流 シンガー・ソングライターのどれも同じような歌が並んでいる、単調なものに聞えそ うです。その点では、ケイト・ウルフのデヴュー作と同じく、「見栄え」を良くしよ うという配慮はまずゼロです。  
 そこで浮かんでくるのが、歌のすばらしさ。ありがたいことに全曲歌詞がついてい るので、歌そのものの良さが一層はっきりわかります。ウッズの歌は、アイルランド らしい、抒情的な性格で、日常生活の細部に宿る感情の機微をすくいとることに長け ているようです。使われる言葉もごく平明で、歌っている内容も決して難しいもので はありませんが、そこにこめられた感情はなかなかに深い。スケイツの歌も方向では 変りませんが、音楽的によりアメリカを感じさせます。その点ではマクガリグル姉妹 に近い、都会的な知性が光る。ジャズ的なスイングをもつ曲もあります。  
 各々の歌6曲ずつの全12曲。一応各々の今の時点でのベストをあげれば、ウッズは 「買物依存症」にも通じる、現代のモノを買う行為の底に潜む恐ろしさをさり気なく 提示する "Ordinary articles of merchandise"、スケイツはアルバムのラスト、「愛」をキーワードに人の一生をうたってみせた "Love at its best"。
 (17/2/99)


●THE SOUTH WEST WIND
○Gael-Linn CC47CD; 1988 bought from Claddagh Records in Dublin via mail order

 有名なアルバムですが当時買い逃し、それっきり手に入れる機会のなかったもの。 別に入手が難しいわけでもなく、単に忘れていた(^_^;)だけです。こういうのがけっ こうあったりします。
 タイトルどおり、南西部クレアの中でも西部の音楽ばかりめいっぱいつまった一 枚。ブラウンはダブリン生まれですが、ウィリィ・クランシーをはじめとするクレア のパイパーの影響をもろに受けたパイピングを聞かせます。特にレギュレイターの使 い方の上手さでは、彼の世代だけでなく、現役パイパーの中でもトップクラスではな いでしょうか。ここでも、フィドルとパイプだけの中で、レギュレイターで巧みなア クセントをつけているのが気持ちよい。
 フィドラーのオラクランはクレア出身のベテランの由で、フィドルのほかにフルー トとパイプも達者だそうですが、ここではフィドル以外はフルートを披露していま す。
 クレアでも東部のシュリアヴ・ルークラとは異なり、ポルカはなく、ジグ、リール が主体で、ホーンパイプとエアが一曲ずつ。最後の2曲でブラウンの妹 Tierna がフ ィドルで参加。
 ライナーにもあるように、ここにあるのはハーモニーとかアンサンブルといった「モダン」な概念とはほとんど縁のない素っ裸の伝統音楽です。代わりにあるのは、伝 統の持つ慣性の大きさ、個人の形をとって現れた、なにものもおしとどめることはお ろか、方向を変えることすらままならない巨大な存在の姿。先を焦ることなく、しか し一瞬たりとも停まることなくゆっくりと進んでゆく。一音一音に揺るぎない確信と 自信が溢れ、例え全世界が滅ぼうとも響いているであろう強烈な存在感。
 ダンス・チューンの躍動的なことは当然ですが、それ以上に、全体のレジスターが 低いこともあってか、どっしりと腰のすわった音楽です。
 発表当時、その年のベスト・トラディショナル・アルバムに選ばれたのも無理はな い出来栄え。
 (7/2/99)


●Maura O'Connell WESTERN HIGHWAY

 国内盤が出ると言うので久しぶりに聞返しましたが、良いですね。モーラのアルバ ムを一枚選べと言われたら、最新作 WANDERING HOME とどちらか迷うところです。大 いに迷って両方選ぶところでしょう。  
 アメリカ音楽の一角にアイルランドを志向する流れがあれば、アイルランド音楽の 中にもアメリカを志向するベクトルは常にあります(なにせアイルランドで一番の人 気といえば「カントリー」)。とはいえ、その二つの要素が融合して実を結ぶのは実 はそれほど多くはありません。まず思い浮かぶのはソングライターとしてのポール・ ブレディでしょうか。そしてここにもうひとり、この二つをシンガーとして結びつ け、うたの桃源郷を作り出しているのがモーラ・オコーネルです。  
 これはたしかモーラの3枚め。アイルランドで発表の2年後、タイトルと曲順を変 えてアメリカ盤が出ています。HELPLESS HEART という新作だと思って買わされたぼくは、全曲歌詞がついていたので許しました。  
 リンゴのほっぺ、健康で心優しく、いざとなれば頼りになるアイルランド娘。「コリーン」という言葉がこれほど似合う人もいないですが、その「コリーン」から、一人前の歌い手へ、ひとりの類稀なシンガーの誕生と言っていいと思います。時は1987 年。ところはナッシュヴィル。立合うは異才ベラ・フレック。バックを固めるのはジェリィ・ダグラス、サム・ブッシュ、スチュアート・ダンカン、ラスティ・ヤングを はじめとする、ナッシュヴィルでも一癖ある一流どころ。ダグラスは今のところモー ラの全録音に参加し、後にはプロデュースも務めます。メアリ・ブラックにおけるデ クラン・シノットというところでしょう。  
 とりあげるのはアイルランド、イングランド、アメリカのソングライターの歌。ナ ンシ・グリフィス(タイトル曲でのコーラスは、この人が他人につけたバック・ヴォ ーカルとしてベストではないでしょうか)、シェリル・ウィーラー、ポール・ブレデ ィ、リンダ・トンプソン、カーラ・ボノフ等々。チャートを賑わすものではありませ んが、つねに歌いつがれ、何年も聞込むほどに味わいを増す歌たちです。  
 モーラのヴォーカルは、ある時は溌剌とロックし、ある時は心の襞にしっとりと分 け入ってきます。メアリよりは低い、ドロレス・ケーンに近い声域でしょう。包容力 の大きな、どこまでも暖かい声。やはりどこか乾いたアメリカン・サウンドのバック に乗るとき、そのうるおいに満ちた響きが絶妙のブレンドをかもし出します。
 傑作なり。
 (18/11/98)★このサイトで通信販売しております。ご希望の方はこちらへどうぞ〜★


●Niamb Parsons & the Loose Connection
○LOOSEN UP;Green Linnet GLCD1167; 1997 bought somewhere (I have forgotten)

 で、まずはじめはアイルランドのシンガー、ニーヴ・パースンズのソロ第2作。こ の人はソロ・アルバムでデヴューし、その後フランシス・ブラックの後釜としてアー ケイディに参加しました。アーケイディではセカンド MANY HAPPY RETURNS に入って います。このアルバムは買ったまましばらくその辺りに漬けてあったもの。こういうのも多 いです。この名義でのファーストもアーケイディでのシンギングもすばらしく、これ も期待いっぱいで買ったものの、何かの拍子に聴きそこなってそれっきり。アイルラ ンドの歌ものを聴く必要があって思出したのでした。前作とはうってかわってインスト1曲と3曲の他は、旦那である Dee Moore の作品ばかりを歌ったコンテンポラリー・アルバム。むろん悪かろうはずはなく、豊かな 響きの声を自在に操って、様々な世界を歌います。伝統音楽の体裁を持つものもあれ ば、ラテン調の曲もあり、ブルースを思わせるもの、軽快なアップテンポ、じっくり 聞かせるスローなラメント。どんな歌がきても軽々と歌いきって、その魅力を存分に 引出しています。本当に器量の大きなシンガーです。 残りの3曲ですが、一つはアイルランドのシンガー・ソングライター、Briege Murphy の "Clohinne winds"。破れた恋を夢に見る歌。しみじみ聞かせます。一曲は トム・ウェイツの "The briar and the rose"。ヴォイス・スクォドの一人、フラン ・マクフェイルとのデュエット。伴奏はニール・マーティンのチェロのみ。ぞくぞくします。そしてもう一曲、掉尾を飾るのがロン・キャヴァナの名曲 "Reconciliation"。ライヴ録音だそうですが、無伴奏ソロ。絶品。 バックのルース・コネクションはその名の通り非常にルーズなバンドらしく、前回 とはメンバーも変り、ディー・ムーア (guitars)、ニール・マーティン (cello)、ジ ョン・マクシェリィ (uillean pipes, low whistle)、ジミィ・ヒギンズ (percussions)、アラン・ケリィ(蛇腹)などなど、でしゃばらず、要所は締める理 想的なバッキング。インスト曲ではリールとジャズを組合せたり、全体的に優れたセ ンスの光る、粋なアルバム。声が似ていることから、ドロレス・ケーン2世と言われていたパースンズですが、 その大器が花開きはじめたようです。
 (9/11/98)



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