コーク州ミドルトンにあるライヴ・スポット「ミーティング・プレイス」はハンリ
ィのお気に入りのヴェニューで、あまりに気持ちの良さに想わず、「いつかここでラ
イヴ・アルバムを作りたいねぇ」と口走ったものが、そのまま形になったアルバム。
1997年12月初旬の二日間、友人のギタリスト、フィリップ・ドンリィを相棒に、時に
若いシンガー、ニーヴ・キャヴァナをゲストにして、収録された13曲、70分。
ドンリィは生、電気持ちかえで、例によって味わい深い伴奏を聞かせ、キャヴァナ
は若さいっぱいのヴォーカルでこれまた円熟したハンリィとあざやかな対照を見せて
くれます。
とはいえ、このアルバムはあくまでもシンガー、そしてソングライターとしてのハ
ンリィの見事さを証明するものでありましょう。カリスマという点ではクリスティ・
ムーアに一歩を譲るとしても、そしてその一歩がかなり大きいとしても、シンガーと
してはポール・ブレディに匹敵するといってもおかしくない人であり、ソングライタ
ーとしてもこれまたアイルランド屈指の人であります。それにしてはあまりにも過小
評価がすぎるというもの。代表作もほぼ網羅されたこのライヴで、まずはこの人の生
地に触れていただきたいものです。最小限の設定は、シンガーの実力の高さと歌の良
さを充分に引出しています。
ライヴの成否はひとつには聴衆の反応であり、こうした距離の短い設定ではなおさらその比重は高まりますが、その点でもこれは理想的であったようで、例えば
"Past the point of rescue" でコーラスをまるまる歌ってしまうのは、もはや聴衆
などというおとなしいものではありますまい。男性ばかりでなく、女性のファンもし
っかりついているらしく、完全に演奏の一部です。
なまじっかアイルランドにあってアメリカ的色彩が強いためか、見過ごされがちな
人ですが、無心に心を開いて聞けば、やはり類稀な音楽家に違いありません。
とはいえ、やはりバンドよりも、こうしたシンプルな背景の方が映えることは確かです。
(11/3/99)
ジミィ・マカーシィやノエル・ブラジルなど、男性陣が目立つアイルランドのシン
ガー・ソングライターですが、90年代に入ってここでも女性の進出がはっきりしてき
ました。今度のフランシス・ブラックの新作(ソニーからのメジャー・デヴュー)で
も、新しい女性ソングライターの作品をとりあげているようですが、自分で歌うこう
した女性たちも確実に現れてきています。
といって、この二人の素性は今のところまるでわかりません。ご存じの方はご教示
を。買った動機は、このレーベルで、ここはカラム・サンズがやっているところで
す。自分の作品や兄弟のものをリリースしていましたが、ここ数年、特にいわゆるシ
ンガー・ソングライターのアルバムに力を入れているらしく、数ヶ月前、雑誌に載っ
た広告を見て、まとめて注文してみました。その一枚がこれ。 Rosemary Woods
はこれ以前にもう一枚、WALKING TOGETHER (SCD 1027, 1992) と いうアルバムがあります。未聴なので、聴いたらご報告します。
一聴して連想したのが、マクガリグル姉妹。もちろん音楽性は違いますが、姉妹の
ように良く似た声と、微妙に歌作りの姿勢がずれていて、なおかつ親近感があるとこ
ろはそっくりです。
ジェイムズ・ブレナハセット、リーアム・ブラドリィ、ロッド・マクヴィーといっ
た実力はがバックにつき、ギターはキーラン・ゴスが弾いている(しかもほんとにギ
ターだけ、コーラスもつけない)のですが、このバックはあくまでもバックで、ごく
控え目、ギターもほぼアルペジオに終始します。ぼんやり聴いていると、田舎の二流
シンガー・ソングライターのどれも同じような歌が並んでいる、単調なものに聞えそ
うです。その点では、ケイト・ウルフのデヴュー作と同じく、「見栄え」を良くしよ
うという配慮はまずゼロです。
そこで浮かんでくるのが、歌のすばらしさ。ありがたいことに全曲歌詞がついてい
るので、歌そのものの良さが一層はっきりわかります。ウッズの歌は、アイルランド
らしい、抒情的な性格で、日常生活の細部に宿る感情の機微をすくいとることに長け
ているようです。使われる言葉もごく平明で、歌っている内容も決して難しいもので
はありませんが、そこにこめられた感情はなかなかに深い。スケイツの歌も方向では
変りませんが、音楽的によりアメリカを感じさせます。その点ではマクガリグル姉妹
に近い、都会的な知性が光る。ジャズ的なスイングをもつ曲もあります。
各々の歌6曲ずつの全12曲。一応各々の今の時点でのベストをあげれば、ウッズは
「買物依存症」にも通じる、現代のモノを買う行為の底に潜む恐ろしさをさり気なく
提示する "Ordinary articles of merchandise"、スケイツはアルバムのラスト、「愛」をキーワードに人の一生をうたってみせた
"Love at its best"。
(17/2/99)
●THE SOUTH WEST WIND
○Gael-Linn CC47CD; 1988 bought
from Claddagh Records in Dublin via mail order
有名なアルバムですが当時買い逃し、それっきり手に入れる機会のなかったもの。
別に入手が難しいわけでもなく、単に忘れていた(^_^;)だけです。こういうのがけっ
こうあったりします。
タイトルどおり、南西部クレアの中でも西部の音楽ばかりめいっぱいつまった一
枚。ブラウンはダブリン生まれですが、ウィリィ・クランシーをはじめとするクレア
のパイパーの影響をもろに受けたパイピングを聞かせます。特にレギュレイターの使
い方の上手さでは、彼の世代だけでなく、現役パイパーの中でもトップクラスではな
いでしょうか。ここでも、フィドルとパイプだけの中で、レギュレイターで巧みなア
クセントをつけているのが気持ちよい。
フィドラーのオラクランはクレア出身のベテランの由で、フィドルのほかにフルー
トとパイプも達者だそうですが、ここではフィドル以外はフルートを披露していま
す。
クレアでも東部のシュリアヴ・ルークラとは異なり、ポルカはなく、ジグ、リール
が主体で、ホーンパイプとエアが一曲ずつ。最後の2曲でブラウンの妹 Tierna
がフ ィドルで参加。
ライナーにもあるように、ここにあるのはハーモニーとかアンサンブルといった「モダン」な概念とはほとんど縁のない素っ裸の伝統音楽です。代わりにあるのは、伝
統の持つ慣性の大きさ、個人の形をとって現れた、なにものもおしとどめることはお
ろか、方向を変えることすらままならない巨大な存在の姿。先を焦ることなく、しか
し一瞬たりとも停まることなくゆっくりと進んでゆく。一音一音に揺るぎない確信と
自信が溢れ、例え全世界が滅ぼうとも響いているであろう強烈な存在感。
ダンス・チューンの躍動的なことは当然ですが、それ以上に、全体のレジスターが
低いこともあってか、どっしりと腰のすわった音楽です。
発表当時、その年のベスト・トラディショナル・アルバムに選ばれたのも無理はな
い出来栄え。
(7/2/99)
●Maura O'Connell WESTERN
HIGHWAY
国内盤が出ると言うので久しぶりに聞返しましたが、良いですね。モーラのアルバ
ムを一枚選べと言われたら、最新作 WANDERING HOME とどちらか迷うところです。大
いに迷って両方選ぶところでしょう。
アメリカ音楽の一角にアイルランドを志向する流れがあれば、アイルランド音楽の
中にもアメリカを志向するベクトルは常にあります(なにせアイルランドで一番の人
気といえば「カントリー」)。とはいえ、その二つの要素が融合して実を結ぶのは実
はそれほど多くはありません。まず思い浮かぶのはソングライターとしてのポール・
ブレディでしょうか。そしてここにもうひとり、この二つをシンガーとして結びつ
け、うたの桃源郷を作り出しているのがモーラ・オコーネルです。
これはたしかモーラの3枚め。アイルランドで発表の2年後、タイトルと曲順を変
えてアメリカ盤が出ています。HELPLESS HEART という新作だと思って買わされたぼくは、全曲歌詞がついていたので許しました。
リンゴのほっぺ、健康で心優しく、いざとなれば頼りになるアイルランド娘。「コリーン」という言葉がこれほど似合う人もいないですが、その「コリーン」から、一人前の歌い手へ、ひとりの類稀なシンガーの誕生と言っていいと思います。時は1987
年。ところはナッシュヴィル。立合うは異才ベラ・フレック。バックを固めるのはジェリィ・ダグラス、サム・ブッシュ、スチュアート・ダンカン、ラスティ・ヤングを
はじめとする、ナッシュヴィルでも一癖ある一流どころ。ダグラスは今のところモー
ラの全録音に参加し、後にはプロデュースも務めます。メアリ・ブラックにおけるデ
クラン・シノットというところでしょう。
とりあげるのはアイルランド、イングランド、アメリカのソングライターの歌。ナ
ンシ・グリフィス(タイトル曲でのコーラスは、この人が他人につけたバック・ヴォ
ーカルとしてベストではないでしょうか)、シェリル・ウィーラー、ポール・ブレデ
ィ、リンダ・トンプソン、カーラ・ボノフ等々。チャートを賑わすものではありませ
んが、つねに歌いつがれ、何年も聞込むほどに味わいを増す歌たちです。
モーラのヴォーカルは、ある時は溌剌とロックし、ある時は心の襞にしっとりと分
け入ってきます。メアリよりは低い、ドロレス・ケーンに近い声域でしょう。包容力
の大きな、どこまでも暖かい声。やはりどこか乾いたアメリカン・サウンドのバック
に乗るとき、そのうるおいに満ちた響きが絶妙のブレンドをかもし出します。
傑作なり。
(18/11/98)★このサイトで通信販売しております。ご希望の方はこちらへどうぞ〜★
で、まずはじめはアイルランドのシンガー、ニーヴ・パースンズのソロ第2作。こ
の人はソロ・アルバムでデヴューし、その後フランシス・ブラックの後釜としてアー
ケイディに参加しました。アーケイディではセカンド MANY HAPPY RETURNS に入って
います。このアルバムは買ったまましばらくその辺りに漬けてあったもの。こういうのも多
いです。この名義でのファーストもアーケイディでのシンギングもすばらしく、これ
も期待いっぱいで買ったものの、何かの拍子に聴きそこなってそれっきり。アイルラ
ンドの歌ものを聴く必要があって思出したのでした。前作とはうってかわってインスト1曲と3曲の他は、旦那である
Dee Moore の作品ばかりを歌ったコンテンポラリー・アルバム。むろん悪かろうはずはなく、豊かな
響きの声を自在に操って、様々な世界を歌います。伝統音楽の体裁を持つものもあれ
ば、ラテン調の曲もあり、ブルースを思わせるもの、軽快なアップテンポ、じっくり
聞かせるスローなラメント。どんな歌がきても軽々と歌いきって、その魅力を存分に
引出しています。本当に器量の大きなシンガーです。 残りの3曲ですが、一つはアイルランドのシンガー・ソングライター、Briege
Murphy の "Clohinne winds"。破れた恋を夢に見る歌。しみじみ聞かせます。一曲は
トム・ウェイツの "The briar and the rose"。ヴォイス・スクォドの一人、フラン
・マクフェイルとのデュエット。伴奏はニール・マーティンのチェロのみ。ぞくぞくします。そしてもう一曲、掉尾を飾るのがロン・キャヴァナの名曲
"Reconciliation"。ライヴ録音だそうですが、無伴奏ソロ。絶品。 バックのルース・コネクションはその名の通り非常にルーズなバンドらしく、前回
とはメンバーも変り、ディー・ムーア (guitars)、ニール・マーティン (cello)、ジ
ョン・マクシェリィ (uillean pipes, low whistle)、ジミィ・ヒギンズ (percussions)、アラン・ケリィ(蛇腹)などなど、でしゃばらず、要所は締める理
想的なバッキング。インスト曲ではリールとジャズを組合せたり、全体的に優れたセ
ンスの光る、粋なアルバム。声が似ていることから、ドロレス・ケーン2世と言われていたパースンズですが、
その大器が花開きはじめたようです。
(9/11/98)