INTERVIEW
マーティン・ヘイズ&デニス・カヒル インタビュー
2000年7月27日  アイルランド、ポートリーシャにて
質問制作/対訳:茂木 健


MARTIN HAYES

Q:ミッドナイト・コートというバンドの結成のいきさつ、またはあなたが参加した経緯を聞かせてください。エレクトリック・ギターとフィドルを擁したジャズ/ロック・バンドというと、すぐにマハヴィシュヌ・オーケストラを連想してしまうんですが、ミッドナイト・コートの音楽は、具体的にはどのようなものだったんでしょう?

 あのバンドについては、ちょっと秘密にしておきたいなあ……。シカゴに移ってすぐに、デニスとは出逢っていた。すぐ近所に住んでいたから。ぼくらは一緒に、クラブやキャバレーで演奏していた。幾つかのバンドを渡り歩きながらね。そんなことにもうんざりして、新しいバンドをやろうと決めたんだ。あの段階では、ぼくはアイリッシュ・ミュージックに確信が持てずにいた。自分が本当にやりたいことを見つけるために、いろいろ実験してみたかったんだ。で、ミッドナイト・コートというエレクトリック・バンドを結成した。ドラムス、ベース、ギター、フィドルだけの4ピース・ロックン・ロール・バンドだったんだよ。けっこう愉しかったね。音楽的実験と、挑戦の時期だった。マハヴィシュヌ・オーケストラ……ぼくは大ファンだったよ。実は、ぼくたちのバンドもケルティック/アイリッシュ・マハヴィシュヌになればいいのに、と思っていたんだ。残念ながら、そこまでいけなかったけど。そういえば、ジェリー・グッドマン(マハヴィシュヌのヴァイオリン奏者)もシカゴの出身だな。

Q:2枚のソロ・アルバムを制作されたあと、ほかの楽器をすべて除外し、カヒル氏だけをパートナーに選ぼうと決断した最大の理由は何でしたか?

 ファースト・アルバムの時は、どうすればいいのか分からなかった。自分のやりたい曲を選んで、ギタリストを見つけて、ほとんどリハーサルもせずスタジオ入りした。エンジニアにこう訊かれてね、“君はパフォーミング・アーティストなのか、レコーディング・アーティストなのか?”。このふたつを別個のものとして考えたことなんかなかったし、今でもそうだな。デニスを選んだのは、ぼくのやりたいことに最も的確に応えてくれるのが、彼だったからだ。だから、彼と一緒にステージをやるようになって、そのままを(『ザ・ロンサム・タッチ』に)録音した。音響処理はちょっとしたけど、オーヴァー・ダブとかは一切なし。どんな長いトラックも一発録音だ。ぼくらは、ツアーしながら各曲を練り上げていたし、新曲を加えていた。だから、このアルバムを録音するときには、そのままやればよかったんだ。録音中にも新曲を学んだけどね。たとえばM1。この曲をぼくはうろ覚えだったので、ロスにいる友だちに電話をかけ、電話口で教えてもらった。特に慎重な準備をしたわけではないよ。そして、それでいいと思っている。ぼく自身が曲に昂奮できるし、新鮮さが損なわれないからね。

Q:クレアでの"The Lonesome Touch"に対する反応、特に今年五月に亡くなったボビー・ケイシーさんなどヴェテラン・フィドラーからの反応は、どのようなものでしたか?

 クレアの人びとの反応と言われても……みんながみんな、褒めてくれるはずもないし(笑)。だけど、ぼくの知る限り、ジュニア・クレハンとボビー・ケイシーはぼくらのやっていることを認めてくれたし、愉しんでくれた。もちろん、ぼくの父もね。もっとも、ボビー・ケイシーは何を考えているかはっきり口に出すような人じゃなかったけど(笑)。ぼくは、かれら(クレアのヴェテラン演奏家たち)を充分に意識して演奏しているつもりだ。かれらの考え方や、かれらが音楽に求めているものを尊重し、理解しようとしている。そのなかで、ぼくも演奏していたいんだ。かれらの“musical desire”のなかでね。

Q:現在のデュオという形態による可能性を、当面は探究していかれるものと想像しますが、アイルランド伝統曲の新たな解釈だけでなく、ほかの文化圏の音楽を取り入れる、あるいはほかの楽器を加えるという考えはありますか?

 将来的には、別の楽器を加える可能性は考えられる。でも、ほかの音楽文化を吸収するかどうかについては、自分でも疑問だな。確実なことは何も言えないけど、今のぼくは、まだ音楽の内部にどうやって没入するかを学んでいる最中なんだ。現在のスタイルを、まだまだ大いに楽しんでいるし。このスタイルが定める限界も好きなんだよ。限られたオプションのなかから、最良の道を探してゆくというのは、すごくクリエイティヴだ。自分と音楽とのあいだに少し距離をとって、音楽自体の美しさや感情を引き出そうとしてるんだな。これをほかの音楽文化でやるとなると、難しいだろ? 新作は、11月か12月に録音を始めて来年発表する予定だよ。

Q:その新作が出たら、また日本に来てくださいよ。



DENNIS CAHILL

Q:あなたは、マーティンと同世代ですよね? 

 歳はマーティンより八つ上だよ。70年代のアイリッシュ・バンドは聴いていた。シカゴでも、この種のアルバムは簡単に手に入ったし。いちばんよく聴いたのはボシー・バンドで、プランクシティ、デ・ダナンと続く。当時は、アイリッシュ・ミュージックを特に意識してはいなかったけどね。両親はケリー出身で、ラジオやレコードでトラッドをよく聴いていたけど、ぼくはあまり熱心に付き合わなかった。ケリー・スタイルは主にスライドとポルカだろ、ぼくは、ジグやリールのほうが馴染みがあったから。両親の出身地はシェイマス・べグリーのすぐ近所(ディングル)。シェイマスは、ぼくのおじさんの知り合いなんだ。

Q:トラッドの伴奏楽器としてのギター興味をもつようになったのは、いつごろからですか? 影響を受けた、または集中的に聴いたというトラッド・ギタリストはいますか?

 ミッドナイト・コートでは、マーティンがトラッド専科だったから、ぼくも生ギターを持って伝統曲を学んでいった。その一方で、マーティンはジャズやロックを学んでいたんだ。ぼくが最初に聴いたトラッド・ギタリストは、ポール・ブレディだった。今はロック畑での仕事が多いけど、本当に素晴らしいトラッド・ギタリストだよ。ほかには、アーティ・マクグリン、スティーヴ・クーニーをよく聴くな。

Q:現在のギター・スタイルに落ち着いたのは、いつごろだったのでしょう? ヘイズ氏とのデュオをはじめてからですか?

 マーティンとやるようになって、まず彼の演奏のリズムに興味をもった。非常に参考になったのが、“シャン・ノース”ダンサーのノリだね。古いスタイルで踊るソロ・ダンスだよ、『リヴァーダンス』みたいなやつじゃなくてね(笑)。クレアでもらったテープのなかに、マーティンとPJ(マーティンの父)の伴奏で踊るウィリー・キーンという人のダンスがあった。リズムがはっきりと聴きとれてね、これがあのリズムか、と思ったよ。それを、自分の演奏に取り入れた。要は、曲の真髄に触れ、その曲をもっと生き生きと聴かせることなんだ。だから、曲によって手数を減らしたり増やしたりしている。

Q:ジャズを学ばれたんですよね? あなたのテンションの使い方、ヴォイシング、そしてタイミングに、ジャズの影響が現れているように感じています。もし影響を受けたジャズ・ミュージシャンがいるなら、その人たちの名前を教えてください。あなたの手数の少なさから、ジム・ホールのタッチを想起することもありますし、簡潔で効果的なヴォイシングには、一部のピアニストからの影響も感じられるような気がします。

 ジャズは何人かについて学んだな。大学と、個人教授で。先生のひとりは、40年代からずっと演奏してきたジョージ・アレンというギタリスト。60年代末から70年代初めまで彼のもとで学び、その後大学でボブ・ベッカーという人から学んだ。マーティンと演奏するときのぼくが、ジャズを応用しているとは全く思わない。ジャズとは、ヴォキャブラリーであると考えているから。モードやスケールについても、ジャズと関連づけては特に考えていない。ジャズ・スケールなんてものが特別にあるわけじゃないし、スケールはスケールだもの。テンション、ヴォイシング、タイミングについては、曲のなかから見つけ出し、引っぱり出してやろうとしている。ぼくがいつも強く意識しているのは、曲に何かを付け加えすぎないようにすること。曲のなかから、見つけ出してやることが重要なんだ。いろいろとこねくり回したものを、外から付け加えてみたところで、ちょっと聴いただけでは面白いだろうけど、何度も続けて聴くうち場違いになってしまう。だから、音は慎重に選んでいるよ。曲のムードを強調できるようなものだけを、付け加えるように注意してるんだ。曲は徹底的に分析する。どのように響くべきか、マーティンとどんな会話ができるかを見つけ出すためにね。
 ジャズ・ミュージシャンとしては、ビル・エヴァンス(ピアニスト)が大好きだね。マイルス・デイヴィスや、セロニアス・モンクも好きだ。あとはコルトレーン、パーカー、最近の人ではパット・メセニー、クラリティと細部表現の上手さでウィントン・マルサリス、キース・ジャレット……ギタリストなら、ジム・ホールもずいぶん聴いたし、ジョー・パス、ジョン・スコフィールド、ビル・フリゼールも好きだ。特に好きなのは、トリオでやっているときのジョン・マクラフリン。彼もクラリティが素晴らしいね。でも、どちらかといえばピアニストが好きだな。

Q:チューニングはノーマルが中心ですよね? オープン・チューニングはどのようなものを使いますか? また、多くの写真では、Collings(テキサスの手工品メーカー)OM-2Hのように見えるギターを弾いてますよね。ステージやスタジオで使うメインの楽器がこれですか? ほかには?

 チューニングはスタンダード。『ザ・ロンサム・タッチ』では、1曲だけ6弦をCに落とした。どの曲だったか忘れたけどね。ダブル・トラックもあの曲だけだ。スタンダード・チューニングを使う理由は、どこに何の音があるかすぐわかるから(笑)。オープン・チューニングをめぐってはずいぶん論議があるけど、結局は個人が決めることだし。アーティ・マクグリンなんかは、スタンダードと数種のオープンを弾きこなすけど、あれはぼくにはできないな。メインの楽器はCollings OM-2Hじゃなくて、Collings OM。ほかには、ナイロン弦のLowdenと、Running Dogという会社をやってるリック・デイヴィスという人の手工品を2本使ってる。

 ぼくらふたりに、別の楽器を加える可能性はあるかもしれないけど、その場合も、重要なのは演奏者の演奏そのものではなく、考え方だろうね。


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