茂木(以下、茂):『ザ・ロンサム・タッチ』のライナーノーツに使ったインタビュ ーの裏話からはじめよう(笑)。野崎さんから「7月に二人に会ってくる、資料用のインタビューをするから質問を考えてほしい」というオーダーをうけてね、 で、出張中の人間がツアー中の人間に質問するんだから、これは大変だろうと、質問にすべて英訳をつけてメールしておいたんですよ。それで、それを元に取材をしてくれるだろうな、と思っていたら、帰国後、野崎さんからもらったテープには、実に奇妙なインタビュー風景が録音されてたんだなぁ。僕が書いた質問を、マーティンがそのままゴニョゴニョ読んで、「ああ、これはね」と言って自分で答えているわけ。で、まさか……と思ってたら、そのうちに野崎さんの声が聞こえてきて「あ、それはデニスへの質問だから、二つ下のそれ」って(笑)。で、気がついたんだ。これは、質問の英訳をプリントアウトしたものを、そのまま「はい、これ」と言って渡したな!
畠山(以下、畠):ははははははは。
野崎(以下、野):だって、時間がなかったんだもーーーーん!! 本当に時間がなかったんですよ。本当に、もうできないかと思ったくらいで!! デニスの分なんて楽屋追い出されながら取材してた、っていう(笑)。
茂:いや、だからね、その質問の英訳は、要はリファレンスとしてわたしたんですよ。だから相手に気をつかったていねいな言葉が、全部ぬけてたんだよね。
野:いや〜でも充分ちゃんと書いてありましたよぉー。それに私の英語力だったら、どっちにしろ、それほど脚色できないし。
茂:でも、その質問に、全部的確に答えてくれているんだな。
野:そうですよ、マーティン頭いいもん!
茂:デニスもそうなんだよ。
野:デニスも頭いいもん!
畠:はぁー(苦笑)
茂:だから、アストロホールで楽屋にいった時、まっ先に謝ったんだ。先日は失礼しました、って。
畠:あぁ、そういう状況だったんだ、あの時。
茂:二人が、あの質問は君の質問だったのか、って喜んでくれてね。デニス・カヒルなんてね、今まで受けたインタビューの中でいちばん適切でいい質問ばっかりだった、と言ってくれた。
野:おぉ〜!!!
茂:質問の内容まで覚えててくれたもん。それで「しっかし君は、よく僕のギターのことまで調べてきたなぁ!」という話だったんで、「いやいや、あのギターのメーカーと型番を特定してくれたのは、今日はオフィシャルカメランをやっているけど、この畠山氏でして」という話になったわけ。それで畠山さんを紹介したら、すごく喜んでくれてね。自分がステージで使ってたギターを出して、「弾いてみれ」って(笑)。
畠:あぁ、そういう状況だったのかぁ〜。
茂:ピックも自分が使ってたのを出してくれてね。
畠:今まで、ホテルにインタビューにいってギター触らせてもらったことならあったけどね。ステージ終わって直後っていうのは、なかったなぁ。いや〜あれはすごいギターでした!
茂:本当にギターもマンドリンも、実にていねいなメンテをしてるんだよね。
野:サウンドチェックも、すごいんですよ。まぁ彼等のようにいろんな場所で公演をしていると、エンジニアとのコニュミケーションに満足のいかない事も多々あるわけで、だからほとんど二人でやっちゃうんです。まずデニスが客席側にきて、マーティンの音をみる。その後マーティンが、今度はデニスの音を確認する。デニスは自分のマイクをもってきていて、それをセットアップする。それから音も卓じゃなくてマーティンの足もとのミキサーでいじる。それによって、より自分たちが納得いくサウンドを作る、ってことなんだけど。本当にすごい真剣。
茂:彼等の楽器みてても、いろんな場合に対応できるように考えているというのは、わかりましたよ。
畠:僕らは行けなかったんだけど、葛飾は生音だったんでしょ?
野:そうなんですよー。結局PAっていかに生の音に近付けるかってことであって、PA通すと音が変わっちゃうのは、これはしょうがないことなんですけどね。だから葛飾は生でよかった!
畠:それでアストロホールの時も、サウンドチェックの時とかはモニターがあったんだけど、結局本番ではとっちゃったでしょ。サウンドチェックみてたらね、スピーカーの音量に関しても、ミキサーの人に「そっちの卓はいじるな」って言ってた。ウチらはボリューム・レンジが広いから、って(笑)。
野:もちろん葛飾でもPAは用意しておいたんですよ。でも、マーティンが会場に入ってくるなりパンパンとか手をたたいちゃって、「これは生でいけるかもしれない」って。それで生になった。しかもあそこは壁が木で、すごくいいんですよ。アストロホールは鉄板って感じですごくデッドなんだけど。
畠:葛飾は、もともとクラシックとかやれる小屋でしょ。
茂:大きさもちょうどよかったんだろうね。弦楽四重奏をしっかり聞かせられるホールなんだろうね。
畠:葛飾で聴いて良かった、という人がまたアストロホールに来たって感じだったよね。
野:演奏面についてはどうですか?
茂:第一部は、アストロホールのいちばん後ろで聴いてたんだ。すごい人でさ。もう前の方がみえないわけ。そんな見えない中で、音だけ聴いていると、「俺はライブにきているんだろうか」って感じだったね(笑)。
畠:ほんとシーンとして聴いててさ、クラシックのライブかと思ったもん。シャッター切りにくかったもんね、実際。
茂:で、CDと同じ音が聞こえてきてさ(笑)。
畠:とくに彼等ピアニシモからはじまるじゃない? だから余計ね。
茂:で、幸い第2部は前の方でみることができた。おかげで、マーティンのフィドリングがじっくりみれた。アイリッシュ・アクトで初めてみたんだけど、彼はなんと、弾いている途中でボウのスターティング・ポジションを変えるのよ。特にスローエアーで顕著だったんだけど、ボウイングの位置を変える……ボウをいったん弦から離して、アップ・ポジションに持ってきて、それからスーッと次のフレーズを弾きはじめるんだよね。
野:なるほど〜! 確かに他の演奏者はボウはくっついたままですもんね!
茂:弓のいちばん先端を弦の上にいったん置き直して、そっからすくいあげてく。
野:だから長いんだ、弓が! アルタンなんかボウが短いですもんね。こんだけの間で弾いているって感じ。マレードなんか持ち方も短いし。
茂:ホールドするところは、マーティンも端っこってわけじゃないんだけど、とにかくボウイングが丁寧なんだよね。やっぱりそれくらい演奏面っていうか、ボウイングも神経を使っているんだな、と。
畠:いや〜実際ずっとファインダーのぞきっぱなしだったんだけどね、そこからだとマーティンは横顔なのよ。で、デニスの手がよくみえるんだ。
茂:それはよかったねぇ!
畠:本当にデニスの右手はすごい。で、左手もすごい!
茂:あれはジャズギタリストの感じだよね。
畠:で、ピックと爪と併用してやっているでしょ。
茂:うん、そりぁもう丁寧に。
畠:いや〜素晴らしい。見愡れていると撮影はできないしさぁ。(笑)
茂:そういえば、野崎さんのレポートで読んだんだけど、あなたはデニス・カヒルの演奏する「ワルツ・フォー・デビー」を聴いたわけでしょ。
野:そうそう。あの日はたしかプランクトンの井内くんと車の中で「今日の客入れのBGは何にしよう」ってずっと話してて、私はなんとなくこの二人はジャズ、しかもピアノ・トリオがいいって言ってたんですよ。それで、ウチにあるジャズのピアノ・トリオって、ビル・エヴァンスしかなかったんで。それを自分のCDケースにいれて持ち歩いてた。それをデニスがみて、「これは素晴らしいアルバムだ」って言って。
茂:彼は好きなミュージシャンで、いちばん最初にビル・エバンスをあげてたもんね。
畠:僕はね、デニスの演奏方法で、どうも読めないところがあったんだけどね、デニスがビル・エヴァンス好きだっていうのを聞いて、いっぺんにすべてが氷解したんだ。
野:そうそう、演奏のアイディアがピアノなんですよね、どっちかというと。ギターじゃないんだよな。
茂:だから7月の例の質問でかまをかけたのは、ジム・ホールだったんだけど。「あなた、ジム・ホールが好きなんじゃないですか」……じゃない「おまえ、ジム・ホール好きだろ、え?」みたいな質問の文章を、彼が自分で読んでいるんだけどさ……(笑)
野:またその話ですかぁ? 一生言われるなぁ、私(笑)。
茂:そしたら「ジム・ホールは好きだけど、いちばん影響をうけたのはビル・エヴァンスだ」って。そうだよ、ピアノだよな、やっぱりって感じだよね! 実際ライナーに“点綴する”って書いたんだけど……
野:漢字が書けない〜!! それどうやって書くんですかね。この対談をおこす時に困るんですけど!
茂:「点」に「綴る」という字だよ。糸ヘンに又を4つ。つまり、ポツ、ポツ、ポツ、ポツって音を置いていくわけよ。結局ピアニストに影響をうけたギタリストって、ああいう感じになるのかなと思って。そうそう、それで結局インタビューの中ではね、ボイシングやテンションの事も聞いたんだけど、これはね、かわされちゃったと言うべきかな、「マーティンとやるときは、ジャズのイディオムでは音楽を考えてない」って。ジャズはもう、イディオムというよりは一つのランゲージだから。ただ、「チューンの中に隠れているものを引き出そうとしてあげようと思っているだけだ」ってね。「アイリッシュ・トラディショナル・ミュージックで使われているスケールというのは、スケールに過ぎないわけだし、ジャズ・スケールって特別なスケールがあるわけではないだろう」……何を言わんとしているかというとさ、結局学んだことをフル活用しているんだよね。それもまさにビル・エヴァンスのやり方なんだけど、ゴリ押しするんじゃなくて、いちばん効果的に使っていくには、どうしたらいいのかという……マイルス・デイヴィスのコンボにいたときの、エヴァンスのピアノなんだ、あれ。スコット・ラファロをふくめたトリオで、ガンガン弾くやつじゃなくてね。マイルスがクール・ジャズをやってた時の、あのクレヴァーなピアノを弾いていたビル・エバンスを、そのまんまマーティン・ヘイズと二人でやっている、っていう感じ。だから「ライヴ・イン・シアトル」のライナーでこんなことを書いたんだけど、結局デニス・カヒルのギターっていうのは、伝統至上主義者がさ――大島さんの言葉でいうと伝統原理主義者が(笑)――「何かヘンだけど……」といったまま叱責できない、という次元でね、非伝統的なんだよ(笑)
畠:ははははは(笑)そうね!
茂:で、その非伝統的な空間が実は、マーティン・ヘイズの歌う空間としては最高の空間なんだ。こんな面白いことあるか!という感じだよね。
畠:実によく分かる。で、それを当人たちは充分自覚しているしね。
茂:本当にそうだね。あれは完全に確信犯だね! しかし聞いてみたいよなぁー、デニス・カヒルの「ワルツー・フォー・デビー」……あの人のテクニックだと、それこそビル・エヴァンスの右手とスコット・ラファロのベースとをさ、ギター1本でやっちゃいそうなんだけどなあ。そういえば、ニューアルバムが今年の末から録音に入るよ、って言ってたけど。何か他の楽器を入れるのかって聞いたら、可能性はあるみたいなこと言ってたよ。
野:まぁ、でも私は今の二人だけのスタイルを追求してほしいなぁ。
茂:しかし、あの二人に何か加えるというと、和声が鳴らせる楽器じゃないでしょ。で、ベースかな、って気もするんだけど、しかしあれだけ神経の細かいデニスのギターじゃ、ベースもいらないかな。となると、それこそ例えばリアム・オフリンみたいなパイパーがあの二人に加わったら、どうかな、って。
野:するどい! 実は今度一緒にやるんですよ。一緒にやるって言ってもダブルヘッダーのツアーで、共演があるかはわからないんだけど、3月にアメリカで。
茂:そうなんだ。いや、実際オフリンさんみたいな、地味だけど堅実なパイパーにさ、しっかりとメロディを演奏させて、そこにマーティンがからみーの、デニスがバックアップしーの、って言ったら新しいものができあがると思うよ。
野:そういえばスティーブ・クーニーの詩の朗読にマーティンが即興でフィドルをつける、なんていうのもやったみたいですよ。あのディープな声に。
茂:へぇ〜。そういう意味ではさ、あのフォーマットなら、音楽的に余計なことしない人だったら誰でもありかもね。珍しいね……ドーナル・ラニーの出番のないアイリッシュ・ミュージック!(笑)
野:いいのは、この二人はアメリカにいたからよかったんじゃないか、と。ドーナルの影響は、アイルランドにいたら、音楽的にもビジネス的にも絶対でてきますからね。
畠:それは言えたね!
茂:たしかに、ビジネス面でのメリットってのを追求していくと、やっぱり売れっこの人たちと、って事になるんだけど。
野:もうアイルランドにいたら、テレビにでたり、映画の音楽やったりしても、ドーナルのいないところなんてないですもん!
茂:それを完全に離れたところで、自分たちのスタイルを追求できたってあるかもね。で、あそこまで行ったら、次は彼等がもっといろいろ巻き込んでいくべきだよね。
畠:そうだね。
茂:意外にシェイマス・ベグリーなんてのもよかったりして。彼にアコーディオンやらせないで、歌としゃべりだけやらせる。
野:すごい仲いいみたいですよ! たしかにシェイマスおじさんのMCの方がいいかも。マーティンのMCはイケてないですよねー、シャロンとかもそうなんだけど、曲のタイトルしか言わないんだもーん。
茂:シェイマスは今、男性シャン・ノース・シンガーでは一番いいんじゃないかな。で、デニスのギターと一緒にやると、これまたいいかもしれない。デニスのあのギター。完全にノンビートの歌にも、ついていける人だと思うしね。
畠:いいねぇ!!
茂:マーティン&デニスに関しては、MCは弱点かもな。よく覚えているのは、第2部の時に曲を紹介しながら、曲目を忘れちゃうんだ。
野:あ、あれはね、あれは毎回言ってんですよ!(笑)「で、次は……えっとーなんだか忘れちゃった」みたいな。で、そこでお客さんがウケる。つまり、それがマーティン流のギャグというかジョークのつもりなんですよー。
畠:あ、そのへんは寒いんだー。
野:それ言っちゃうと可哀想ですけどねぇ。
畠:唯一、人柄がでる部分だけど、デニスなんてあぁいう風貌じゃない。演奏している時は近くにもよれない、って感じだもんね。
茂:MCはあれが精一杯なのかな。ドーナルとかも決して上手くないけど。
野:いや〜でもドーナル、この前ロンドンで見たとき、よくしゃべってましたよ。まぁ、マーティンとデニスは、あの感じはあの二人だけだから、向かうところ敵なし、ってことですかね。
畠:ほんと、そうだね。
茂:うん。そういう意味じゃ、今後、というか、実際今でも、自分たちを追い込んでいるよね。例えばアルタンなんか、マレードにしてもトゥーリッシュさんにしても、いろんなバンドと共演して、わーい、パチパチみたいなノリってあると思うけど、あの二人にそういうノリはないでしょう。
野:そうですね。でも今だに、こうなんていうか……バランス的にはあるみたいですよ。今だにサマースクールの先生やってるし、フェスティバルに出たりとか……
茂:そういう伝統モードに入るとね。マーティンはそういうのがあるから、これまた面白いアーティストなんだよ。デニスとのデュオのモードに入る時と、使いわけられるじゃない? すごいよな。
畠:実際、すごいクオリティのコンサートだったよなー。あの2時間があっという間だったもん。
茂:もうひとつ、マーティンのフィドル聞いてて気が付いたことがあったんだけど、やっぱ彼はスピッカート得意だよなー。
畠:そうだね。
野:スピッカートってどういうやつですか?
茂:弦の上で、ボウをすごい短い周期でパタパタパターっとジャンプさせる。スタタッッッッタタ、スタタッッッッタターって。字におこすと、すごい間抜けなんだろうけど(笑)
野:それってクラシックの奏法ですよね?
畠:そう。トラッドではなかった。
茂:偶然やっちゃったりとかは、よくある。それから意識的にやるにしても、あれほど連続的にできるというのは、本当に右手のボウコントロールがしっかりしているから、できるのであって……。それでも、あれほど連発して聞かせるのは初めてだね。
畠:基本的にトラッドのフィドルってのは、ボウが弦から離れないのよ。さっきも言ったように。アメリカのトラッドにしてもそうなんだけど。とはいえ、アイリーンなんかもクラシックのテクニックを導入するじゃない? あと、左手のビブラートとかかける人もでてきてるんだけど。
茂:そう、左手は楽勝なんだ。でも、右手はできないのよ、これが。今までスピッカート取り入れてたのは、フランキー・ゲイヴィン(デ・ダナン)くらいだもん。
野:いや〜フランキーのフィドルはすごいですもんね。殺人的というか……
茂:「殺人的」……うまいこというなぁ! 鉈(ナタ)でスッパンスッパン切っていくみたいな、ね。だから右手のコントロールのウマさはフランキーがいちばんかな、って思ってたんだけど、これはゴールウェイ/ドニゴール・スタイルとクレア・スタイルの違いかもしれないけど、丁寧さっていう意味ではマーティン・ヘイズの方が上だよね。
野:まぁ、フィドルプレイヤー沢山みてますけど……いちばんすごいのは、やっぱり、フランキーかな、ってずっと思ってたけど、今はマーティンかなぁ、って、そう思います。
茂:それは正しいと思うよ。
野:で、女はアイリーンね。全然タイプ違うんだけど、あの男らしいリズム感抜群のフィドル! 本当にすごい。
畠:そうだね。ほんと上手いよね。たたきあげてる人だよねー。
茂:で、フランキーが鉈でスパンスパン切っていくフィドルだとしたらさ、マーティンは鉈と匕首(あいくち=短刀)持ってんの。
畠:なるほど!
茂:鉈でスパンスパン切りながら匕首でズブリと刺して、で、全体はまろやか……うーん、始末が悪い!(笑)
畠:だから最初聞いたとき、なんだ、これは?になっちゃうんだよな。
茂:それを、ステージでも徐々に組み立てていくじゃない。ピアニシモではじまる。ほとんど時代劇……鍔鳴り(*註)から聞かせるんだよな。
畠:チャリンで始まる(笑)。
茂:「鍔鳴り」だいじょぶ?
野:漢字はどうやって書くんですか?
茂:金ヘンに顎のコッチ側を書くんだよ。つまり刀を抜きますよ、っていう前に、鍔の鳴る音だけで「うん、こいつできる」みたいな……そういうやつ。で、徐々に、徐々に刀を抜いていくんだよ。
畠:一気に抜くんじゃないくてね。
茂:で、上段の構えで……ぴたっとみせて……
畠:彼のやり方は正眼(刀の構え方。切っ先を相手の目にぴたりと向ける)だよね。
茂:で、最後、切り込むときにスピッカートをズババババババ、と。
野:なるほど! しかし、まぁ、なんというかすごいですよね、とにかくすごい。音楽に入りこんでいく感じもすごいし、それをみせるテクニックも……本当にスゴイ。
茂:そう。鍔鳴り、正眼から、最後の踏み込みで一刀両断……これ、すべてお客さんを相手にしているわけ。でお客さんは、最初の鍔鳴りで「なんじゃ、こりゃ」と思い、正眼にかまえられて「おやおや」と思い、真正面から最後に切り込まれ、ばっさりとやられて、バンザーイみたいな(笑)。
畠:で、やられて、大喜びで、後々まで語りつぐんだよ。
茂:ほんと、時代小説かい、って感じだよね。それくらい凄みのある人たちではあるよね。
畠:だから、ステージの上とオフステージと、ギャップがすごくない?
茂:そりゃあ刀を持ってないからさ! 「フィドルと刀」なんて、本のタイトルにでもなりそうだなぁ。
2000.11.25 茂木氏宅にて
(註)後日気になって調べ直したら、「鍔鳴り」の正確な定義は、「刀を鞘におさめるときに発する鍔の音」となっていました。つまり、この対談での「鍔鳴り」は、まったく逆の意味で誤用されていたわけです。語っている二名が、過ってこの語を認識していたことが図らずも露呈されたものの(おお恥ずかし)言わんとしていることはご理解いただけると思いますので、酔っ払いの放言として御寛恕いただければ幸いです。(茂木)