OAK TREE RECORDS 対談ページ 5
T:五十嵐 正  A:荒田 光一(敬称略)
第1回:男性シンガー/ソングライターは何故売れない?

第2回:ポール・ブレイディとアイルランドの男性シンガー/ソングライター
第3回:パブ・ロックとは何か〜スクイーズ〜途中ロビン・ヒッチコック〜その他
第4回:ロビン・ヒッチコック
第5回:ロビン・ヒッチコック〜グレン・ティルブルック来日レビュー
第6回:ブー・ヒュワディーン「ハーモノグラフ」
第7回:ロビン・ヒッチコックの来日を振り返る
第8回:ロビン・ヒッチコック&ザ・ヴィーナス・3「オーレイ!タランチュラ」
 




第6回:ブー・ヒュワディーン「ハーモノグラフ
A:「アノン」って五十嵐さんライナー書いてたでしょ? あれってイギリス盤に日本語ライナー封入だっけ?

MP:そうです。

A:あれから3年だっけ?

T:その間にギグの会場で手売りしてたライヴ盤があったけどね。今度のアルバムは他人に書いた曲が中心だから、今までとちょっと違わない?

A:うん、うん。

T:曲の感じとか・・

A:「Sing to me」とか全然普段のブーと違うよね。まぁ、あれはあれでおもしろいんだけど。

T:ブーはもともとオーソドックスな・・・昔のティンパンアリーのソングライターも結構好きで、その影響を受けているようなものも書きたい、みたいな志向はあったよね。

A:だってさ、18歳くらいまでギター弾いてなかったんだよね。

T:そうそう! 楽器を覚える前に曲を書き始めた人なんで、楽器の特性や、それを弾く手癖とかに、メロディーが限定されてないんだよね。だから、ナッシュヴィルのソングライターとかとの共作で、時にはカントリーぽい曲を書こうとか、って機会あるんだけど、そういうときでも、あんまりそういう・・・特にアメリカのカントリーとかイギリスのフォークだとか、っていうものの影響は出てこないよね。

A:そうだねー。

T:今、ギターはフォークっぽい感じで弾いているけど、それならクライヴ(・グレッグソン)の方がよっぽどフォークっぽいしね。

MP:しかし、このCDは売れないだろーなー(笑)。困っちゃったな、どうしよーって感じ?

T:「オンタリオ」ってもう歌ってるの?

MP:歌ってますよ。いい曲〜。

A:野崎さんは、エディが歌っているのも聴いたんだよね?

MP:エディが歌うと、これまたいいんだ! 日本でも歌ってなかったっけ? 歌ってないか。

A:曲の感じはどう? ブーのヴァージョンのアレンジに近いの?

MP:近いですよ。イントロとかジョン・マカスカーのフィドルがはいって・・・この曲におけるジョンの役割は大きいですよね、あのイントロにおいて。ジョンは本当にセンスがいいですよね。

T:そういや(ジョンの妻でもある)ケイト・ラズビーは新譜の日本盤が出ないねえ。
しかし、今回のアルバムでは、エディで聴き慣れているせいもあるけど、やっぱりエディが歌っている曲が一番ブーらしい感じがするんだよね。やっぱりブーとエディは長年一緒に書いているからね。

MP:あの二人は本当にソウル・メイトですからねー。しかし今回、ブーはヴォーカルが良い。
ヴォーカルがすごくよく録れていると思う。歌い方がいいっていうか。
っていうか、録音の仕方かもしれない。

T:実に歌手らしく歌っているよね。

MP:少し自覚が出てきたかな、と(笑)。こういうと怒られるだろうけど、エディに似てきた。

T:そりゃ、あれだけ近くでいつも歌ってれば、節回しとか影響されるだろう。

MP:そういや「The Girl who fell...」が、生理の歌だってのは今回初めて知った。

A:詩は、デンマークの人じゃなかったっけ?

MP:そうです。

T:僕はね、最初この女の子が自殺したのかと思ったけど。主人公の子。
月ってそういうイメージってあるじゃない? 死んだ人の顔を月面に思い浮かべるって感じ。
月に恋して、それで行ってしまった、っていうのは、死を意味するのかなと思ったんだよ。

MP:なるほどー。

A:そういや、ロビンの歌う月ともダブってくる。
月は詩人にとってインスピレーションの源みたいなところがある。

T:あとは月の満ち引きと、汐の満ち引きが出てきているから、
それと女の子の神秘的なところ・・というか気まぐれなところ・・・

MP:深いなぁ。タッドの読みも素晴しい。

T:だって、この主人公は寂しかったんだよ、ずっと。それで孤独のあまり、死を選んだのかと・・。だから、この歌はいろんな解釈ができると思うんだよね。
いわゆる行間が読めるってやつ。でも、他の収録曲は割と状況がはっきりしていると思うんだよね。

あ、あと「Submarine」だけ今いちよくつかめなかったんだけど。潜水艦というイメージの使い方がね。

MP:私も「Submarine」はよくわからない。私は「Mountains」が好きで。「I loved you centuries ago」とか言われちゃうと・・・・もーーーメロメロ! ぐっと来ますよ。

あとは「Soul」がいいですよねぇ。曲の背景を知っていると特に。(ブーの亡くなったお母さんのために書いた曲)親が死ぬにしても60って、今、早すぎるからね。
しかも亡くなったのがエディのお父さんと1週間違いかなんかだったでしょ。ちょっとすごい。

A:これは曲解説読んで、ちょっと泣けたなぁ。

MP:しかしこのアルバムは、私は本当に好き! 最初、ブーの新譜かぁ、売れないだろうし、
またインディーズで輸入してサクっとやるかなんて思ってたんだけど、音が到着して、
やっぱりOak Treeでやろうって思った。
今まで出したOak Treeの4枚の中で、たぶん一番売れないだろうけど、一番好き!

A:イヤ、もしかしたら、これ、売れるかもよ!

MP:そうかなー、そうかなーっ!!(あぁ、この仕事ってほんと夢がある)

T:ヤイコ(矢井田瞳)がステッカーに推薦の言葉を書いてくれたしね。 

MP:矢井田さんもハートがあるよねぇ。
こんなたいしたことないリリースにさぁ、こうしてコメントを寄せてくれるわけだからさぁ。

T:しかしブーって、僕にとっては相変わらず謎の男なんだけどさー。
ブーはさ、プロデューサーとして活躍したりさ、オアシスのマネジメントのレーベルのA&Rとかもやっていたりするわけじゃない? あのA&Rは、もうやってないかもしれないけど・・

MP:そうですよ、ブーは。あの!コアーズのプロデュースもしてんですよ。

T:スタジオでプロデュースっていうか、仕切る、他の人に指示するっていう姿が想像できないんだよね。どうしても想像できないんだけどさー。(荒田さんに)想像できる?

A:確かにプロデューサーってのは、ちょっと彼の柄ではない気もするけど…。

MP:そういやレーベルのA&Rだった時に、一度いろんなレコード会社を紹介してあげたの。
エイベックスとかも来てくれたんだよな、あの時。それで説明するのを脇で聞いてたんだけど、
ブー、けっこうカッコよかったよ。あの甘えん坊のブーとは思えないくらい。
ちょっとびっくりしちゃった。

T:もう一つの顔があるんだな、きっとな。

A:やっぱりヘイヴンをやってた時のノウハウとかがあるのかなぁ。

MP:いや、ヘイヴンはどっちかというとブーというより相方のデレクのレーベル。

T:どうして今回ヘイヴンでやらなかったのかな。
(リリースは、カルム・マッコールの新しいレーベル、mVINEから)

MP:ヘイヴンはやろうと思えばいつでもやれるでしょ。そっちでやると全部自分でやって自分で予算も出さなくちゃいけないんだけど、他からオファーがあれば、それはそれでって事だと思う。別にこの件について、ブーと話したわけじゃないけど、勝手に想像するに、きっとそうなんだろうと思う。しっかしカルム・マッコールってすごいいい人ですよ。

T:あぁ、なるほどー。しかしブーって出版(を持っている会社)ってどこだっけ?

A:大手のクリサリスでしょ。

T:こういうアルバムって、ソングライターとしての自分を売り込むための名刺にもなると思うんだよね。クリサリスが原盤の制作費を全部出してもいいくらいだよ。

A:クリサリス・ミュージックのサイトをみると、ブーのプロフィールがちゃんと載っていて、
たしか楽曲も一部聴けるようになってたりするよ。「Patience of Angels」とかね。ところで、
これさー(と某音楽誌の雑誌広告を見せる)

MP:おぉ〜、スカーレット!

A:これ、メジャーに移籍して2枚目かな。この前が、彼らはヘイヴンだったんだよねー。
ヘイヴンから出したときは3人組だったんだよね。たしかメジャー・デビューの時は2人になったんだけど。「Sing To Me」はこっちのキーボード担当の子との共作だったっけ。

T:なるほど。この子たちは元々ヘイヴンだったのか。メジャーに行ってからは日本盤も出たぞ。しかし、エディと二人でも書くと、男でも女でも歌える歌になるとか言ってたよね。
それはあるな。

MP:あと今回このアルバムの宣伝資料の中で書いてあったんだけど、たとえばエディったら
「私はシングル・マザーで二人のティーンエイジャーの男の子がいて、二人にこの気持を伝えたいからその事を書きなさい」とか、ブーに言うらしいの(笑)。エディ様から命令!みたいな(笑) 
ふぅーん、そんな事言うんだ、エディったら、と思って。「この歌を書け」とか、「わたしの気持を書け」みたいな(笑) まぁ、仲良しだからねぇ、あの二人。

T:で、ブーは一生懸命エディの気持ちを考えて書くから、矢井田瞳をして「女心をがわかる」と言わしめるわけだよな(笑)。

A:でも「Patience of Angels」はもともとバイブルの曲だったみたいだけどね。

MP:ほんとかなー、って思うけど、どうやら当時バンドの連中はあの曲が嫌いだったらしい。で、シングル・マザーのことを歌った歌だって言ってたよね。

T:主人公がシングル・マザーってのは最初のヴァースでわかるけどね。

MP:あとエディがレコーディングの途中、ロサンゼルスから国際電話をかけてきて、
何か歌はないかっていうのでブーが電話口で歌ったって話は有名。

A:そうそう。「ジョーク」を歌ったんだよね。起き抜けで歌ったってのが面白いよね。

MP:パンツ一丁で、電話で歌っているところをポストマンに見られて恥ずかしかったって。

T:でもこの曲、シングルマザーの曲だってのはわかるんだけどさ、
彼女にある数少ないものの一つ、火曜日って何があるのかね。Every Tuesdayに何があるのか。

MP:あぁ。火曜日ねぇ。ブーは、歌詞いいよねぇ、こうしてみると。Little Money savedとか。

T:週給は普通金曜日だし、火曜日だからねぇ。週一回の逢瀬があるとか?

MP:あぁーーータッド、深い。その日は子供預けてデートする日、とか。

T:わかんない。近所のビンゴ大会かもしれない(爆笑)。

MP:あぁ! 確かにビンゴ大会は、火曜日、水曜日が多いですもんね! 
それは天使の忍耐力をためすものだろう・・と。

T:僕には天使のような忍耐力はないけど、ビンゴのリーチなら待てるぞ。

A:この曲はほんとにいろんなオムニバス盤にけっこう入っているよね。

MP:ワーナーが作る女性ヴォーカルのコンピとか、ラブソングのコンピによく入ってますよね。

A:つまり、けっこう稼いでいるよね(笑)

MP:確かに!(笑)あとお二人に今日伺いたかったのは、ソングライターの人のアルバムで、
こういう人に提供した楽曲をセルフカヴァーしているアルバムって何かありますかね。

T:(エルヴィス・)コステロの「オール・ユースレス・ビューティ」(96年)がそうだ、と言われて宣伝されたんだけどね。日本のレヴューは皆、セルフ・カヴァー・アルバムと書いてた。
でも、他の歌手に歌ってもらうことを想定して書いた曲が入っていたけど、本人に言わせると、
セルフ・カヴァーなんてコンセプトでは全然なかったそうだよ。

A:あとはジミー・ウェッブくらいしか思い浮かばないね(96年の「Ten Easy Pieces」)。
いわゆるリメイクは多いんだけど、セルフカヴァーってそれほど多くないんじゃない? 
まして、アルバム1枚丸ごとっていうとね。日本だと、つんくが「Take1」というセルフカヴァー集を出していたけど。

T:日本は多いよ。大体セルフ・カヴァーって日本での造語だしね。ジミー・ウェッブのそのアルバムと同じレーベルから、バリー・マンも出してたでしょ(00年の「Soul & Inspiration」)。
あとはキャロル・キングの「パール」ってアルバムがある(80年の「Pearls: Songs of Goffin and King」)。キャロル・キングが60年代の裏方時代に書いた大ヒット曲の数々を自分で歌ったアルバムだよ。そうそう、エリー・グリーニッチの73年の「Let It Be Written, Let It Be Sung」も大半の曲がそうだったね。でも、こういった人たちは60年代に裏方から始めて、後に表舞台に立った人でしょ。70年代以降のいわゆるシンガーソングライターって自分が歌うのが大前提だからね。あ、そうそう、R&Bのソングライターを探せば、幾つか出てくるでしょ。例えば、モータウンの大ヒット・ソングライター/プロデューサー・チームだったH=D=Hのラモント・ドージアが04年に「Reflections Of」というセルフカヴァー・アルバム出してるよ。
 

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