PAUL BRADY CONCERT REVIEW

 前回の来日時には個人的な都合で観ることができなかったポール・ブレイディ。ネットなどの情報を見てみると、そのときはなにやらすごくいい演奏と歌を披露してくれたらしいことをあとで知る。

 ん〜、そんなに素晴らしいステージだったのか…。

 それからは彼の再来日をただただひたすら待ちわびる生活。次に来日するのがいつになるのか、そもそも次の来日などあるのだろうかという不安。もしかしたら日本でのライブはこのときが最初で最後だったのか??という気持ちと対峙しながらの4年間だった。長かった…。
 しかし願いは叶った! 生の彼の歌をとにかく聴きたかったのだ。やっと彼の歌に触れるときがやってきた。ついに、ついに待ちに待ったポール・ブレイディの来日である。

 4年間も待ちつづけた分、いったいどんなステージを観せてくれるのか、期待ばかりが高まってしまう。スタジオ録音でさえエモーショナルであり、味わいのある彼の歌声は、ライブの場ではどのように聞こえるのだろう? 
 トラッドを演っているライブ音源の"The Liverty Tapes"は本当に素晴らしいアルバムで、熱気に満ちあふれた会場の雰囲気をダイレクトに感じとることができる傑作である。5年前のライブアルバム"Songbook"は、トラッドの枠を飛び出し、独自の世界を切り拓いた彼の姿を生々しく捉えた、これもまた優れた音源だ。
 どちらもライブでのポール・ブレイディ像をはっきり映し出しているアルバムだとは思うのだけれど、でもそれはあくまでもライブの疑似体験。それを生で聴き、その空気に触れ、そして感じることとはいったいどういうものであるのだろうか…。

 そんな思いで臨んだ今回のステージは2回。初回はルナサ、ティム・オブライエン&ダーク・パウエルのあとにトリとして登場するフェスティバル形式。ショーケース的な内容で5曲を披露した彼だが、やはりお祭り的な場の空気を考えてか、さらりとギターを弾き、さらりと歌い(といっても、その“さらりと”が彼の場合ケタ違いなんだけれど…)、余裕を感じさせるステージング。
 ソロでの演奏5曲のあとには、出演者全員による圧倒的なスケールで演奏された"The Homes Of Donegal"が強烈だった。特にルナサの強靱でしっかりとバッキングに徹した演奏たるやさすがで、ポール自身もすごく楽しんでいたように見えた。
 しかし、これもこれで壮大ですごかったが、歌という点からみるとオブライエン&パウエルとの共演で歌われた"Down In The Willow Garden"は最高に素晴らしかった。オブライエンとのハーモニーは、まさに歌を熟知する者同士が創りあげる音の輝きである。二人が丁寧に歌いながら曲を創りあげていくさまは、その姿勢だけでもとんでもなく感動的な瞬間だった。

 歌ってこんなにも光り輝くものなんだ…。

 曲数からみると当然物足りなかったが、あんな歌を聴かせてくれるのであればじゅうぶん納得、満足しなければそれこそ欲張りというものだ。なにしろ彼の歌がもつパワーは想像をはるかに超えていたのだから。

 そしてそれから3日後のソロライブ。
 結論からいってしまうと、まさに圧巻のステージであった。
 彼が演奏したのは19曲。量としては3日前の物足りなさを吹き飛ばすボリュームで、その内容も実に素晴らしいものだった。リラックスした笑顔とは裏腹に、真にプロフェッショナルなギターと歌を響かす迫力あるステージング。音楽にかける彼の真摯な態度とみなぎる自信、あふれる情熱とほとばしるエナジーのすさまじさは、ギターと歌に限りないダイナミズムを生み出していた。
 なかでも驚いたのは、25年も前の曲をものすごいエモーショナルでソウルフルに歌い上げた゛Dancer In The Fire゛。まるで感情に溺れそうになりながら歌う鬼気迫る姿は、彼の歌に対する情念や執着が垣間見えた瞬間だったような気がする。

 "Living For The Corporation"、"Nothing But The Same Old Story"、"Helpless Heart"…。彼が歌う曲にはそのどれもにただならぬ思いを感じとることができた。悲しみや苦しみ、疑問や悔恨などの苦い感情を、あるときは淡々と、あるときは激情的に歌ってくる姿のなんと感動的なことか…。

 ただただそのすごさに呆然とするばかりのパフォーマンスに酔いしれるうちに、ライブは定番の"The Lakes Of Ponchartrain"で幕を閉じた。
 言葉がない…。直後、頭が真っ白でなんにも考えられない自分がいた。あれほどの歌を聴いたあとにいったいどんな言葉が出るというのだ? 噂に違わぬ素晴らしいステージ。とにかくすごかったとしか言い様がない。歌のもつパワーや可能性を存分に思い知らされたライブであった…。

 歌とはいったいなんなのだろうか…。とりわけ歌うことの才能をものすごく高いレベルでもつポール・ブレイディというアーティストにとっての歌とは…。
 歌うことに情熱をかたむけ、心血を注ぎ、そこから生まれるもののなにかを彼はどのくらい知っているのだろう。

 歌という奥深い世界をもっともっと知りたいと思わせてくれたポール・ブレイディ。彼の歌は一生聴き続けていたい。そしてまた近いうちに来日して、生の歌声を聴かせてほしい。歌の素晴らしさをより多くの人に伝えるために…。
 

石井達也



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