メアリー・ブラック/Mary Black 
2005オーストラリアツアー(メルボルン&シドニー)鑑賞記
Yasuhisa Sakamoto
 

1. 日本〜入国

40前後の男一人旅は疑われやすいらしい。シニアの日本人ツアー一行に続けと、入国審査を経て歩を進めた途端、いきなり「Hello」と、にこやかに中年女性係官が待ち構えていたのだ。僕だけを。しかし女性係官は、何やら僕の入国カードに大きな×印を鉛筆で書き加えただけ、「どうぞ」と促す。あれ、なんだ? なんでもなかったのかな、と税関へと次へ歩を進めた途端、「君こっちね。」と若い男性係官に間引かれ、誰もいないカウンターがいくつも並ぶ、その最奥に連れて行かれる。そこは特別な雰囲気。すると例の中年女性係官が「また、会ったわね」と、あちらからにこやかに近づいてくる。あとは質問攻め。
「旅の目的は何か」便宜上「観光」と答えてはいたが、手荷物の中から航空引換券を見つけ出し、3泊5日で2都市をせわしく回るスケジュールを知るや、にわかに疑念が増したようで、所持品を細かい刷毛などで掬い取って検査(!)したり、スーツケースの中身まで調べだした。
大陸広し、されど税関の門狭し。これはまずい、とあらためて「目的はコンサート」と訂正するや、今度は自らコンサート活動するのと間違われてしまい紆余曲折の説明となった。そこでやっと思い出した! 証明するものがあるではないか! 所持品の中から、折りたたんでいたメアリーのライブチケットを提示してみた。するとそのチケットに刻印された「With Shane Howard」の文字に、係官「おっ、この人知ってるよ。」と反応。
僕「オーストラリアのシンガーソングライターですが。」係官「なぁ、お前も見てみろよ、この人知ってるだろ」
と、さらに別の係官も巻き込んで、鼻歌まで飛び出して盛り上がった。これでようやく無罪放免。
チェックは厳しいが、会話はのんきなもんだ。

2. コンサート(5/19メルボルン&5/21シドニー)

まずは、オープニング・アクトのシェーン・ハワードから。ホイッスルを交え、弾き語りを中心とした内省的な歌だ。途中から妹のマルシア・ハワードが加わったのには驚いた。メルボルンのみのスペシャルゲストらしい。メアリーのライブDVDで聴くより太くしっかりしたボーカルだ。心なしか雰囲気もDVDで見るよりも垢抜けたような。兄妹デュオにスティーブ・クーニーのディジュリドゥ演奏が加わる。これだけ聴けただけでもオーストラリアに来た甲斐あるよなぁ。
いよいよメアリー。バゥロンを鳴らして「Saw you running」から始まり、ファンにはすっかりお馴染みの曲を緩急織り交ぜながら朗々と歌う。相変わらず上手い。バンド編成は、ドラム(パーカッション)のマーティン、キーボードがパット。ベースはジェームスに代わって、スティーブがエレキ・ベースで。ギターは正真正銘新しく加わった人で、名前を失念(後に野崎さんによるとカレン・ケイシーバンドの人では、とのことですが)。これまで聴いてきたライブの中で最も小編成だ。
久々に聴いたのは「窓辺のアダム」。当時、日本でもCDシングルで91年に発売された曲。15年くらい前にアイルランドに行った時、メアリーの夫ジョーに会って、ジミー・マッカーシーの曲はいいと感想を話したのを思い出す。ジョーが経営するレコードショップでは、スタッフがジミーのソロアルバムを薦めてくれた。(ちなみにこの曲の本人カバーは、94年発売の「The Dreamer」に収録。)
新曲も幾つかあった。特に嬉しかったのがスコットランドのコニー・ドーバーが歌っていたことで知っていたトラッド「Siuil a Run」を披露してくれた事だ。とてもきれいで哀しい曲。ケルト圏は、本当に美しい曲が宝の山みたいにある。
そして、ボブ・ディランのカバー「Make You Feel My Love」。メアリーはディランのことを「キング・オブ・フォーク」と言っていた。「鐘を鳴らせ」もカバーしていたし、かなり尊敬しているようだ。
聴衆のリアクションが気に入ったのか、メアリーは「お腹が空いたのに」と笑わせながらも、何度もアンコールに応えた。そして最後の曲が「Lay Down Your Weary Tune」。
帰国してから調べて知ったことなのだが、これもボブ・ディランの曲だったのだ。オランダ・ツアーの時に初めて聴いたときは、てっきりトラッドと思い込んでいたのだ(メアリーはまだ録音していない)。僕は、たまたまザ・バースというバンドが65年に発表した「ターン・ターン・ターン」でこの曲の対訳を読んだ。アンコールの最後の最後にMCなく歌う意味はこれだったのか。ディランをほとんど知らない僕が、ようやくじっくり本家を聴いてみたいと思うきっかけになりつつある曲だ。(ちなみにシドニーのアンコールでは、久々に「Only A Womans Heart」にお約束のボブ・マーリィの「No Woman No Cry」をかけて聴衆に受けていた。)
それにしてもメアリーは、コンテポラリーのカバーもうまくアレンジして歌うものだ。メアリーの「解釈」が他の追随を許さない出来栄えとなって新鮮に耳に届く。が、これは本来、聴き比べてあらためて気づかされるものではないのではないか。よくジャズのスタンダードなど安易にカバーすればこき下ろされると言われるが、トラッドで培ってきたメアリーのシンギングは、個性を超えた厳然たる説得力がある。
「Song For Ireland」は今まで聴いた以上に、絶品だった。

3. 余話〜帰国
メルボルンの終演後は、今回はどうかなぁ、と思いつつ、ロビーで出待ちすることにした。ロビーではなんとジョーと娘ローシンがCD販売をしていた。
サイン・記念撮影出待ちの何組かに紛れて待つ。ローシンがメアリーを連れて登場! メアリーが二組ほどのファンと握手など交わしてから、僕。笑顔で握手の手を差し伸べてくれた。「オランダツアー以来ですよ」「ええ覚えているわ!」早速記念撮影。ニュージーランドから来たというファンがシャッターを押してくれた。メアリーはごくフレンドリーな感じで腰に腕を回して、僕もそれに応じたが、いかんせん外国の方との挨拶に慣れてない上に憧れのメアリーとのツーショット。緊張でカチコチになってしまった。そして彼女は順を待つファンにひととおり応じると、「さぁ行きましょう」と。なんと今回も楽屋に連れて行ってくれたのだった。そこでまずパットに挨拶。どうやら日本からの追っかけはすっかりメンバーにまで覚えられてしまってるようだ。続いてスティーブにも。やはり覚えてくれていた。相変わらずのゴムゾーリ姿。はだしの裏にでっかいタコがあるのをしっかり見た。
そして打ち上げパーティーにも一家とともに連れて行ってくれた。さぞかし奇異に映るであろう、一ファンに過ぎない外国人によくここまでかまってくれたものだ。
パーティーはシェーンの肖像が飾られた郊外のギャラリーで。現地の芸術家らしき人達とメンバーが好き好きに酒を飲み、談笑する。この間パットのまだ若い息子が僕の相手をしてくれた。ギャラリーの隅ではダンスチューンの演奏が始まり、そばにいた女性がにわかに立ち上がってアイリッシュダンスを踊り出す。演奏中「ほら、しっかり見ておきなさい」というふうにパットが息子にアドバイスをしている様子が微笑ましい。
シャンパンをしこたま飲んだ。海外旅行でこんなに飲んだの初めてだ。いつのまにか時計は午前4時。楽しかったけどくたびれた〜

正直今回の旅程、大変でした。コンサート会場で隣り合わせた観客も、2都市も行くの? といった驚きのリアクションだった。それは繰り返し観る事より、都市間を移動する大変さを物語っていた。当初国内を列車で11時間かけて移動予定していたところ、野崎さんから「死にますよ」アドバイスをいただいて飛行機に変えて正解でした(笑)。でもその後もメアリー一行の旅は続くんですね。
シドニーではハーバーブリッジのキャットウォークツアーにでも参加しようかと思っていたけれど、これも申し込まないで正解だった。実際行って見ると、足がすくんで…。(終)


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