【ジョン・スミス公式ページ】

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ジョン・スミスを超強力プッシュします!

「もう新しいアーティストは絶対にやらないから。これ以上やったらウチはツブれちゃうもの」

と私が言うにもかかわらず、その日のブー・ヒュワディーンはものすごくしつこかった。「俺がこんなに言ってんだから、絶対にいいんだって」と。でも、ホントこの仕事をしているから人の紹介だったり、どっかから聞きつけたり、売り込みは日常的にある。もうなんか断るのも疲れたというのが私の本音だ。

今年の1月、出張先のグラスゴーのホテルのバーでブーにジョン・スミスを紹介された時、ジョンはなんかサエない感じだったし、私はまったく熱心じゃなかった。サンプルCDをくれるというジョンに私は「いいや、大丈夫。ちゃんと自分で買って聞くから」と言って断ったほどだ。サンプルなんてもらったら、イヤなプレッシャーも同時にもらってしまう。
それでもジョンは私が持っていた新聞の隅っこに自分のホームページのURLだと言って「johnsmithjohnsmith.com」と書いてくれて「日本に一度行ってみたい。憧れの国なんだ」と言ってくれた。ま、こういうのは社交辞令でよくある話だ。今まで仕事してきて、こういう場面は100万回くらいあった。

一方のブーはというと、ジョンとそのお友達が部屋に戻っていった後も、いつになくしつこかった。「ほんとお前はバカだな」と言いながら面倒くさそうにブーがiPhoneで見せてくれたのはジョンの「Winter」のライヴ映像。それを観て私は本当にたまげてしまった。「確かにこのギターはすごいね」と言うと、ブーはそうだろ、と自慢げにうなずいて「それに俺がこんなに言うのも珍しいだろ? 絶対にやるべきだよ。ラウーの時も俺は正しかっただろ?(はい、確かにそうでした)あのドレヴァー(ラウーのクリスの事をブーはこう呼ぶ)だって自分よりジョンの方が才能があるって認めているんだぞ。俺が薦めている、ドレヴァーも薦めている。なんでお前はジョンをやらないんだ」と。そんなわけでジョンのギターに感心した私はたまたま同じホテルに2週間以上滞在していたので、すぐにAMAZON UKでジョンのCDを通販しホテルに届けてもらったのであった。

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「地図または道案内」

それが本作「マップ・オア・ダイレクション」である。ホテルの部屋でラップトップで聞いていた事もあって、その時はジョンの歌の後ろに聞こえる自然音は聞こえなかったから、自宅に帰るまでこのユニークな録音方法に気づかなかったのだけど、まずは楽曲自体が本当に良いのにとても驚かされた。特に1曲目の「Invisible Boy」そして4曲目の「A Long Way to A Woman」なんて、めちゃくちゃ良いじゃん。いや、ホント頭4曲で完璧に脱帽である。久しぶりにものすごく良いアルバムを聴いたと思った。3曲目の「Axe Mountain」の緊張感から4曲目の「A Long Way〜」に入って行く感じなんて本当に最高である。本当に最初から最後まで完璧にちゃんと聴かせるために作られたアルバムだと思う。それはジョンの楽曲の良さにくわえて、プロデューサーのジェイソンの特殊なレコーディング方法における見事な手腕によるものが大きいと思うが。

でもこの旅心誘うこの作品の内容が、(その時の)寂しい私の出張心に共鳴しちゃったかとも思ったので、ジョンを日本に紹介することを決意する前に、本当にこれが日本に紹介すべきに値するアーティストなのか、さっそく周りの人たちにマーケティングを始めることにした。

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実は新人君をやるにあたり、このプロセスは非常に大事なのだ。

だいたい海外出張に出ると「何か拾って帰らないと」という気持ちが働く場合もある。何を紹介すべきか冷静にちゃんと判断しなければ、お客さんの信頼を裏切ってしまう。ちょうどケルティック・コネクションというグラスゴーのフェスティバル開催中だったので、毎日いろんな人に会うことが出来た事もあり、会う人、みんなに「ジョン・スミスってどう思う?」と聞いて回ることにした。

面白いことにジョンのことは知らない人はかなり多かった。聞いた人たちのうち、半分以上の人が「どのジョン・スミス?」と聞いてきた。でも知っている人は一様に口をそろえて「あのギターはすごいな」と言っていた。ジョンのことを知っているのは関係者というよりもミュージシャンに多かった。つまり、まだジョンはミュージシャン仲間の中でやっと話題になりはじめたという段階なのだと思う。しかもいわゆる伝統音楽系の連中とはあまり交わらない活動をしているのだから、それほど知っている人が多くないのも無理もない。紹介してくれたブーだって、ジョンのことを知ったのは、それほど前ではないようだ。最初にジョンに会ったのは自分の前座としてジョンがあらわれた時だったとブーは話していた。リバプールだかどっかでのコンサート。最初は「ジョン・スミス? 誰だ?」と思ったブーだが、自分より先に演奏したジョンがあまりに凄いのだから、ブーはすっかりビビってしまったと言う。

印象的だったクリス・ドレヴァー(ラウー)とエディ・リーダーの評価

そんなグラスゴー滞在中、たまたまとあるバーでフィドラーズ・ビドのクリス・スタウトと、クリス・ドレヴァー(ラウー)と一緒になることがあった。二人にジョンのことを聞いてみたらスタウトの方は、まったくジョンのことを知らなかった。一方のドレヴァーの方はブーが言うとおり明らかにすごいと思っているらしく、ものすごく熱心に私にというよりはスタウトにジョンの凄さを説明し、その姿がちょっと可愛いいほどだった。「歌がものすごくうまい」「ギターを横にして叩いたり、とにかくすごくユニークな演奏なんだ」「デヴォン出身なんだけど、ちょっといないタイプのアーティストだ」と。

その次に印象的だったのが、エディ・リーダー。エディから私は実はデクラン・オルークという強力アーティストを売り込まれている。そして悪いことにそれをやれずに実は何年もたってしまってるのだ。ごめん、エディ! 

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エディは「あんたはこの私が推薦するデクランはやらないで、そっちをやるわけね」という明らかにご不満な顔をしながらも「確かにジョンのギターはものすごいわ。それは認める。あれは滅多にない才能よね。でも歌はみんなが言うほどすごいとは思わないけど」と言った。この「みんなが言うほど」っていうところは、エディの間違いない本音だろう。私はこれはかなり正確な評価だと感じた。エディのおかげでかなりの自信を持ったと言って良い。

その数日後には、最近BBCのFolk Awardsも受賞し、中堅クラスという貫禄が出て来たカーラ・ディロンにもジョンの事を聞く機会があった。カーラはもちろん自分のレーベルで共演のEP(に映像を載せました)をリリースしているくらいだから、ジョンことは非常に高く評価していた。「ジョンは素晴らしいわよ。日本に行けばたくさんの人に好きになってもらえると思う」

「ライヴも良いし、なにより頑張り屋さんだから、あなたも絶対に気に入るわよ」と話してくれた。以前プロモーションで同じように日本に呼んだカーラがそういう風に言ってくれるのを聞くのはすごく心強かった。ありがとう,カーラ!

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英国フォーク界の巨人二人にバトンを渡された若者

またライナーで五十嵐正さんが指摘しているとおり、ジョンは晩年のジョン・マーティンやデイヴィ・グレアムにもその才能を高く評価されていた。「英国フォーク界の巨人二人にバトンを渡された若者」と言う五十嵐さんのライナーの言葉に私は膝を打った。そう、英国フォークはずっと続く。音楽が売れないとか、CDが売れないとか、いろんなことを周りの人は言うが、これからも英国フォークは、ずっと続いていくだろう。それは音楽ビジネスがこんな形になるうんと前から存在していた。そして、これからはジョンやその他の素晴らしい才能の新人たちによって引き継がれていくのだ。だからこの時期にジョンが日本でもたくさんの人に聞いてもらえるのを手伝えるというのは本当にすごい事だ。伝統音楽の世界はいい。こうやって、新しい子をやると言えば多くの人たちがアドバイスをくれ応援してくれる。それはもう昨日今日始まったもんじゃない、何百年と続く1つの大きな流れの一部なのだから。この偉大なる音楽の前ではすべてが小さい。だから本当に数は少なくてもいいから、熱心な日本の音楽ファンにジョンの音楽が少しでも認められるといいなと心から思う。実際、現在のイングランドのフォーク界には本当に素晴らしい才能が多い。ジム・モレイやセス・レイクマンなどアイルランドよりもずっと面白い才能たちが次々と出現してきているのだ。ジョンがうまくいったら、他にも紹介したいアーティストは山のようにいる。

ジョンのライヴを観に再び出張へ

その後、ジョンのアルバムはという英国フォークにおけるWebの最重要メディアにおいて、年間ベストアルバムに選ばれるという快挙を成し遂げた。リスナーの純粋なる投票によって選ばれる名誉な選出。ジョンも嬉しかったに違いない。

4月になって、ダブリンで始めてみたジョンのライブは、本当に圧巻だった。「Invisible Boy」でコンサートは静かに静かに始まった。心にしみいるような音楽だった。20代ならではの「悩み」や「迷い」に溢れるジョンの作品だが、そこがうんと年上の私の心にも共鳴していく。私は「自分はいつまでたっても大人になれないな〜」と思いながら、ジョンの歌を聞いていた。っていうか大人になっちゃったらこういう音楽はもうプロモーションできないのかもしれない。もういいや、一生子供で(笑)

ジョンは、これが自分の初めてのダブリンでのヘッドライナーのギグだと話していた。過去2回ダブリンで演奏しているが、それは他の人の前座だったという。会場はUpstairs of Whelansと呼ばれる小さな場所でお客の数はほんの50人くらいだった。が、ダブリンのバーにしては本当に珍しくお客さん全員がものすごく熱心にジョンの演奏を聴いていたのが印象的だった。じゃべり声なんて一切なかった。これはダブリンで飲み物を出しながら営業している小屋ではかなりレアな事だ。たぶん次にダブリンでジョンを観る

時は、おそらくジョンはWhelansの、しかも下の会場(300人くらいのキャパシティ)で演奏するに違いない。だからこの段階でジョンに出会えたこ幸運が嬉しかった。お客さんの中には、今ダブリンでもっとも注目されている女性アーティストのの姿もあった。後で聞いたら、なんとマネジメントが一緒なんだって。ロンドンのオフィスで、たった3人で運営しているのよ、とマネージャーは笑った。デイヴィッド・グレイと、ダミアン・ライスと、リサ・ハニガン、そしてジョンの4人をマネジメントしてるんだって。うわ〜、すごいメンツ!

日本へのプロモツアーが確定し飛行機も押さえた後、なんとジョンはヴァン・モリソンの前座をやらないかというオファーを受けたそうだ。残念ながらその話はこの日本へのプロモ来日のために流れてしまったけど、マネージャーは「本当にやって欲しいなら、また話がくるから」と前向きにそのことを考えていた。いよいよ英国が、世界が、この若者の才能に注目し始めている。

2010.6.23
THE MUSIC PLANT 野崎洋子

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