ABOUT of Music from Greenland


基本情報

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グリーンランドは地球最大の島*。人口は56,000人。首都ヌークは世界でもっとも小さい首都で16,000人が住んでいます。カナダとは一番近い地点で24kmしか離れていません。グリーンランドはデンマーク王国の一部ですが、79年に自治権を与えられ2009年には自治法が制定されました。通貨はデンマーク・クローネですが、切手は独自のものがあります。公用語はグリーンランド語で、多くの人がデンマーク語も話します。

*実は地球上において、島の明確な定義はなくグリーンランドより大きければ大陸になるのだそうです。ちなみに一番小さい大陸はオーストラリア

世界観

11011031_10153209568540948_4689280165283464130_n.jpgアイルランドにケルトの世界観とキリスト教が同時に存在するように、グリーンランドにおいても19世紀前半から徐々にキリスト教が入りはじめたものの、その基本的な世界観は太古の昔より変わっていません。グリーンランド人は世界を、目で見る事が出来る世界(シラ)と見えない世界(シラ・アッパー)すなわち「他界」の2つから成り立っていると考えており、他界を見る事ができるのはシャーマンのみと考えてきました。

トゥピラクは、イヌイットの間で伝わる悪霊の1つです。もともと人の心の中だけに存在し形のないものですが、キリスト教の宣教師がイヌイットたちにトゥピラクの姿を描かせたことで、そのユニークな姿がついに明らかになりました。今はどこかユーモラスなその姿もあいまってお土産物屋の人気者です。

上のトゥピラクの集合写真は代官山で行われた「スピリチュアル・グリーンランド」展に展示された高松宮家のコレクションのうちの数体です。





交通

グリーンランドは国土があまりに広く人口が少ないため電車はなく、また集落と集落の間には道がありません。国内移動はもっぱら海か空経由になります。

ちなみに海外からグリーンランドに渡るにはレイキャビックから2時間のフライトがある他、コペンハーゲンからもフライトがあります


Music by Nanook

言語

グリーンランドの言葉は、ヨーロッパの言語とはほど遠くアメリカやカナダのイヌイット/エスキモーの言葉と同じグループに属します。また国土が広いので、西と東、そして北部ではだいぶ方言が違います。19世紀に入ってアルファベットが与えられ、もとからある言葉に綴りが加えられました。

北米やロシアにおいてはイヌイットの言葉がほとんど死に絶えてしまっているのに対し、グリーンランド語はまだ90%以上の人により話されており、これは世界の言語文化上から見ても極めて異例のことです。

最近では地球温暖化や、先進国の介入で、イヌイットの重要な狩猟文化は途絶えつつあります。またデンマークからの入植者との混血が進み、多くの人がデンマーク語を話す中、何をもってグリーンランド人というアイデンティティを保つことが出来るのか、その基準はとても曖昧です。

だからこそ、言語はグリーンランド人のもっとも重要なアイデンティティであるとグリーンランド人は考えており、ナヌークはそれを体現しているバンドです。グリーンランドの多くのバンドやアーティストがより広いマーケットを求めて英語で歌う中、ナヌークは、すべての歌をグリーンランド語で歌うことを重要視しています。





過酷な自然と狩猟文化、そして社会問題


グリーンランドが独立したいと考えているのは事実ですが、実際のところデンマークの援助なしには国がまわって行きません。保護された地域ならではのバランスの悪さや、問題は大きく、深刻な社会問題を引き起こしています。

ナヌークのクリスチャンが曲を書き始めるきっかけになったのも、ティーンエイジャーの時、友達が自殺をしたのがきっかけ。それはクリスチャンが14歳と17歳の時のことだったそうです。自殺や鬱はグリーンランドの大きな問題です。これはいろいろ意見が別れるところではありますが、これだけ過酷な自然の中で生きることで、人はもちろんシンプルな力強さも身につけていくでしょう。70年代に書かれた植村直己の著書を読むと、遠くから来た植村さんを歓迎するイヌイットたちのスイートな歓迎ぶりとピュアな優しさを感じる事が出来ます。

しかしながら、これだけ過酷な中での生活は「努力したからといってどうにかなるものでもない」という考え方が根強く存在する原因にもなります。

あまりにも他の世界から離れているため、新しいもの、非日常は非常に歓迎される一方で、従来からあるあやういバランスは、外来からの影響であっという間に崩れて行ってしまいます。通貨経済、お酒、タバコはすべてもともとグリーンランドには存在しなかったものです。例えばインターネットはグリーンランドでは非常に高価なものですが、現在これがない生活は当然考えられません。

犬ぞり文化

北米のエスキモー/イヌイットのほとんどがスノーモービルを運転しているのにたいし、グリーンランドにはまだ力強く犬ぞり文化が残っています。また犬を列ではなく放射状につなぐのが、グリーンランドのスタイルです。

植村直己さんの著書によるとグリーンランドのハスキー犬は力強く働いた事のないカナダの犬よりも、うんと役にたつそうです。また植村さんは雪原で犬に逃げられ命の危険が迫った時、他の犬を連れて戻ってきてくれたリーダー犬のアンナをとても大切にし日本へ連れ帰ったりもしました。アンナは帯広動物園で飼われるようになり現在は剥製として展示されています。植村さんとアンナの物語は日本では児童書などにもまとめられ広く親しまれています。

ちなみにグリーンランドの文化は、樺太犬やアートやボディ・ペインティングのデザインなど、アイヌの文化と非常に近いものがあります。ちなみにナヌークの二人に犬ぞりは運転できるか聞いてみましたが、答えは「出来ない」とのこと。犬ぞりは都会っこの彼らにとっては非常にスペシャルなもので、自分の国の伝統文化であり観光的な要素と捕らえているようです。

地球温暖化問題とグリーンランド

北グリーンランドの集落シオラパルクに住む日本人イヌイットの大島さんは「地球温暖化で氷が溶けて狩猟文化での生活が難しくなってきた。現在フルタイムの猟師は自分を含めて4人しかいない」と嘆いています。

グリーンランドにおける狩猟活動は犬ぞりが走るための氷がしっかり貼っていることが前提ですが、これが地球の温暖化で、狩猟が可能な時期がどんどん短くなってきています。また最近は環境保護団体の介入により、狩れる獲物の頭数などが厳しく制限され、逆にそれが生態系のバランスを崩していると大島さんは話します。

100名いたシオラパルクの人口も、今では50名ほど。便利な都会へと、人口の流出は止まるところを知りません。一方で、一部のグリーンランド人において温暖化はとても歓迎され、溶けた氷の後に近頃ではレアアースなどの地下資源を狙って中国資本などが続々と進出しています。

音楽シーン

グリーンランドは、あまりにも人口が少ないため結局のところ音楽については点、まったく個人的な活動でしか存在しないと言えます。現在は年間約10枚ほどポピュラー・ミュージックのCDが制作され発売されていますが、そのほとんどがより大きなマーケットを求めて英語やデンマーク語で歌うことを前提としています。現在注目されているグループとしては、国内で圧倒的な人気を誇るナヌーク、そしてアメリカのインディシーンとも交流の深いニーヴ・ニールセンなどがあげられます。

伝統音楽のジャンルにおいては、イヌイット独自の世界観に基づくドラムダンスがあげられますが、これは宗教儀式や伝統芸能の域を出ていません。過去イゴン・シキバットという人気奏者もいましたが、彼も観光の1つとして消化されてしまった感があります。

そんなグリーンランドの音楽シーンにおいて、もっとも社会に大きな影響を与えたのはSUMÉという70年代のロック・グループです。彼らは学生時代に留学したデンマークでレコードを制作しましたが、なんとその歌詞はすべてグリーンランド語でした。つまり彼らはグリーンランド語で歌った最初のロック・グループで、アルバムはグリーンランド人の5人に1人が買った計算になるくらいの大ヒットを記録しました。社会的メッセージの強い彼らの音楽が、この国の自治権獲得に大きな影響を与えたと言われています。

そしてSUMÉに続く新しいグリーンランドの音楽として、もっとも注目されているグループがこのナヌークと言って良いでしょう。詳しくはこちらのページへ。





■参考リンク
Greenland(英語)
駐日デンマーク大使館のグリーンランドのページ(日本語)
グリーンランド ウィキペディア(日本語)
朝日新聞のグリーンランド特集

以上、文章はすべてTHE MUSIC PLANTの野崎が参考資料をもとに書きました。専門家ではないので、間違っている場合があるかもしれません。