Biography of メアリー・ブラック

地元で圧倒的な人気。それはU2よりもエンヤよりも大きい。

アイルランドでもっとも人気のあるアーティスト、メアリー・ブラック。その人気は特に90年代後半に圧倒的なものであった。ダブリンでもっとも大きな会場ポイントシアターを連続5夜ソールドアウトにし、リリースするCDは発売と同時にダブルプラチナを獲得。企画したプロジェクトのCDはアイルランドで売れたCD歴代No1になるなどたくさんの記録を打ち立てた。いわゆる老若男女問わず、すべてのアイルランド人に圧倒的な人気を誇るのが彼女だ。現在はほぼ引退生活を送っているが、お孫さんが生まれたことがアイルランドの新聞に大きく取り上げられたり、次男がロックバンドで成功し大きな賞を獲得するなど、アイルランド人の生活とともに常に存在している人気シンガーなのである。

世界的にも最高のシンガー。歌への真摯なアプローチ。

アイルランドを中心に活動している彼女だが80年代中旬は世界的な伝統音楽グループ、デ・ダナンのヴォーカリストとしてアメリカをツアーするようになる。その後、89年の傑作「ノー・フロンティアーズ」がアメリカ、英国、ヨーロッパ、日本と世界中で発売されるようになり、これをきっかけにアイルランド国外でも広く活躍するようになる。特にアイリッシュ系の移民が多いアメリカ、英国ではかなり大きなツアーをするようになった。最終的に大きなシングル・ヒットには恵まれなかったが、現在でも定着した人気を誇る。日本には90年から99年の間に5回来日。特に最初の来日はアイルランドを代表するマルチグラミー・バンド、チーフタンズの来日よりも前の事で、まさに日本におけるアイルランド文化の先駆けとなった。

今年で引退を宣言。これが最後のワールドツアー。日本へもこれが最後。15年ぶりの来日公演決定!

昨年メアリーは「音楽にあふれる人生をおくれたことに感謝します。今年で世界的なツアーは最後にしますが、最後に私の好きだった国をたくさんまわりたい」と宣言。2014年は1月のドイツをスタートに英国、そして日本と各国をまわることが決定した。日本では丸の内のコットンクラブにて公演が決定。ラストを飾るにふさわしい親密さを感じられるステージで、力強さと素朴な温かさにあふえる歌後を満喫できることでしょう。

COTTON CLUB 5月19日(月)、20日(火)
1st Show open 5:00pm / start 6:30pm
2nd Show open 8:00pm / start 9:00pm
〒100-6402 東京都千代田区丸の内2−7−3 東京ビルTOKIA2F
後援 アイルランド大使館

スクリーンショット 2014-03-15 0.38.21.png「子供のころから、私は自分のことをシンガーだと思ってきた。この感覚は体の一部みたいなものになっていて、ひとときも離れたことがない。歌っているその場所が、私にとって一番幸せな場所なの」

「自分が歌っている時は歌の世界に没入して、他の誰かに影響を与える事なんて、綺麗さっぱり忘れてしまうのだけど、歌い終わって眼を開き、周りを見渡すと気がつくのよ。聴いていた人たちも私と同じ場所に連れていかれたのだな、って。そんな時、自分にとって歌はかけがえのないものだと実感するの」

アイルランド音楽を中心とするケルト音楽は、日本でとても人気がある。ポップス歌手や若いバンドが、自分の曲の中でティン・ホイッスルなどの伝統楽器を使うことも当たり前になってきたし、TVをつければCM音楽や旅番組のBGMにかなりの頻度でケルト音楽が流れる。一方でかなりマニアックな現地のグループも来日し、日本でコンサートを行い、定期的に活動するニーズも少しずつだが確立しつつある。とはいえ、ここ10年ほどしかアイルランドの音楽を聴いていない人は、おそらくこの女性シンガーの存在を知らないのではないだろうか。なにせ彼女の最後の来日から15年という月日が流れてしまっているのだから。

1990年、日本では大都市を中心に巨大メガストア系のCD店が人気を博していた。店舗のサイズが広がったので、おのずと多くの種類のCDがお店に置かれるようになり、エンヤの『ウォーターマーク』のヒットの影響もあってか、アイルランドの伝統音楽にも大きな注目が集まった。そんな状況下、世界的な大レーベルとは契約がなかったキングレコードの洋楽部(当時)が、初めて日本に紹介したのが、このベスト盤の主人公、メアリー・ブラックである。メアリーはCDリリースの直後、早くも初来日公演を実現させており、これはチーフタンズの初来日公演(1991年)よりも前の出来事であった。

日本に入ってくる洋楽は、当時も今もアーティストがどこの国の出身であろうと、英国発、アメリカ発のメジャーレーベル経由であることがほとんどだ。しかしメアリーは、ずっと夫が経営する小さなレコード会社/マネジメントオフィスとともに着実に自分の足でキャリアを作ってきた人だった。だからキングレコードとの契約もアイルランドからの直契約。それはつまり日本に直接入ってきた最初のアイルランドの音楽と呼べるものだったかもしれない。

メアリー・ブラックを紹介する時に、どんなキャッチフレーズが適切なのかはいつも悩むところだ。アイルランドの「国民的歌手」とでも呼べば良いのだろうか。なにせ彼女の人気は地元では圧倒的だし、日本デビュー時に使っていたのは「自国で、エンヤよりも人気がある」というフレーズだった。確かに世界的にはエンヤやU2のCDの方が売れている。が、地元での人気という事になると、そもそも人気の種類が違う。TVをつけたらそこに出ている人、ラジオをつけたらそこで歌っている人、コンサートを気軽に見に行けて、隣の家のお姉さんみたいに身近に感じられる人…そんな存在である必要がある。ましてやアイルランドのような小さい国でこれだけたくさんの支持を得るには、本当に若い人からお年寄りまで、男女を問わず、あらゆる人に人気がないといけないからだ。

そんな地に足をつけた活動でアイルランド人の心を音楽で癒してきたメアリーだが、彼女の優しさと安堵感に満ちた歌声に、ユニヴァーサルな魅力があることは疑いの余地がない。一度聞いたら絶対に忘れられない温かさとぬくもりに溢れ、同時にアイルランド特有の力強さも感じさせる。優しくて力強い、この声を聴くだけで、聴く者は自分のすべてが許されているような気持ちになってしまうのだ。こんなにも愛情に満ちた歌声は全世界探しても、そう多く存在するものではないだろう。だから彼女の15年ぶりの再来日が決まり、このベスト盤で改めて皆さんに彼女が作って来た素晴らしい音楽をご紹介できるのは、とても嬉しい事だと思う。

THE MUSIC PLANT 野崎洋子 (ライナーノーツより)