【ヤヌシュ・プルシノフスキ・コンパニャ】COLD WAR


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この6月に日本でも公開されるこの素晴らしい映画をご紹介します。『COLD WAR あの歌、2つの心』 関係者試写で拝見しました。ありがとうございます。

前作『イーダ』も素晴らしかったパヴェウ・パヴリコフスキ監督の最新作。おしくも受賞は逃しましたが、第91回アカデミー賞の監督賞/撮影賞/外国語映画賞の最有力候補でした。

ちなみに『イーダ』は現在ブルーレイ、DVDでゲットできます。



『イーダ』もそうでしたが、この監督。とにかく映像がきれいで、1シーン1シーン、すべてにうっとりしてしまいます。本作もそんな期待を裏切らないモノクロの素晴らしい映像なんですが、なんとビックリ! この映画はなんと「農村マズルカ」でスタートするのです。

うーん、やっぱり来てるな、農村マズルカ!

サブ2.jpgこの映画全体に激しい男女関係とともに音楽も流れているわけですが、そこにはもともとプリミティブで力強かった農村マズルカが、ステージで演奏する用に演出され、大衆に分かりやすくするために、いわゆる「フォーク・ショウ」(ヤヌシュの言葉)、もしくは英国の名門ワールドミュージック誌SONGLINESが言う「Fakelore(フェイクローレ=ゆがめられたフォルクローレ)的なものへと、本来あるべき姿から変わってしまう様子も描かれます。

オーディションに集められた貧しい農村のミュージシャンたちは、安定した生活を得るため自ら喜んで自分の音楽的な能力を政府へ提供してしまうのです。ちなみに主人公の男性は、そんなオーディションを審査する役目を担った伝統音楽の収集家であり研究家でもあります。そこで、このマッドな女性シンガー、ズーラと出会うわけです。

当時の村のミュージシャンといえば、この映画に出て来るとおり、ボロボロの恰好してひどい状態でした。そもそもミュージシャンがかっこいいものとして認識されるようになるのは、戦後多くの場所で人々の生活が安定し、レコードなどの録音物が登場してから。それまで農村における音楽家は農作業する力強さもなく、卑しい、無教養な存在とされてたのです。そんな彼らは農村の冠婚葬祭の時だけ、活躍し重宝がられる場が与えられていたのでした。

農村マズルカはこうして共産政権下のポーランドでステージにあげるために大きくゆがめられていきます。本来あった魅力的なワイルドさや野性味を失い、洗練されたダンスや衣装を着せられた彼らは、政府のプロパガンダに利用されていったわけです。

ちなみに映画に登場するMazowszeというグループは実在して、実際48年に政府によって作られ50年以降、パリやアメリカにもツアーしたという有名グループです。現在も存在していて各地でコンサートを行っています。まぁ、こういうのがはやっちゃえば「こういうのがポーランドの伝統音楽」と多くの人が認識してしまうのは、無理もないことです。

映画は冒頭から、いきなりパイプとフィドルのけたたましい農村マズルカで始まります。このようにマズルカは本来、歌と器楽のかけあいで、自由でワイルドな存在でした。続いて出て来るおばあちゃんのアコーディオン奏者にも注目!

おばあちゃんが足で空気を送るタイプのアコーディオンを弾きながら力強くマズルカを歌っているシーンなのですが、鍵盤が3段あるのが見える事でしょう。

ちなみに、この映像でヤヌシュが弾きながら歌っているのですが、これがポーリッシュ・アコーディオン。やはり鍵盤が3段あります。(あら、偶然にもこれも「こころ」って曲だ。もっとも同名異曲のようですが…)



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ただヤヌシュによれば、この右手側の3段の鍵盤のうち黒鍵は「はったり」で見た目がいいから付いているだけなんだって…。すごいな!



そしてこの映画のおばあちゃんが歌っている曲こそ、ヤヌシュがよくオープニングで演奏しているこの曲。(メインメロディは、1:49から始まります。注意して聞いてみてください)



サブ1.jpgそしてこの曲は亡命した主人公の男性と一緒にフランスに渡り(ちょっとその流れがショパンを彷彿させますが)、ジャズに変化していく。特に彼が同曲をジャズ風(ビバップって言うんでしたっけ? こういうスタイル。誰かジャズに詳しい人,教えて)に演奏しているシーンはなかなかのものです。

そして女優さん、本当に素晴らしいですわ。すごい逸材を見つけてきたもんだ… ものすごい美人ってわけじゃないのに、色気がすごくって、存在感もすごくって、歌もすごく雰囲気があって、引き込まれる…。

そんなわけで、くっついたり離れたり… 映画は男女関係の物語にひっぱられていきますが、最後までいろんな音楽が流れ、二人の関係が… こうなんというか、グッチャグチャになっていく様子に… 思うわけです。「女は怖いなぁ…」と! 「男はちょっと可哀想だなぁ…」と!



ところで、この映画全編にながれるズーラの十八番「オヨヨ〜イ」ですが、この曲は(彼女が映画の中で言っていることが正しいとすれば)ソビエトのミュージカルの曲で、オーディション時に審査をしていた女性がこの歌と彼女の態度を見て「都会の子ね」と気づいたことからもわかるようにトラッドではありません。監督が確かカンヌかなんかのインタビューで言ってましたが、本来農村の伝統音楽に魅力を感じ、プロパガンダに抵抗していたはずである男性にとっては、にっくきソ連の曲なんて…という気持ちがしたとは思いますが、なぜか強く彼女の「オヨヨ〜イ」に惹かれてしまうのが、これまた男女の悲しいところ。



こちらは現在のMazowszeのステージ。確かにこんな映像みちゃうと… トラッド色はなく、観光客が見るステージっつーか、チーズくさい感じがしないではないですね… 衣装とかすごい素敵ですが。

もしかするとこの歌はアイルランドでよく言うところのコーニー(くだらない流行歌)に属する歌なのかもしれません。まぁ、でも分かりませんよ。コーニーだって300年人々の間で歌われれば、立派な伝統音楽になるわけですから…。現にこんなにかっこいい映画で、ズーラが歌うジャズ・ヴァージョンとかめっちゃかっこいいわけですから。




監督( © Opus Film and Apocalypso Pictures.).jpg監督のパヴェウ・パヴリコフスキ © Opus Film and Apocalypso Pictureそれにしても同じ感想は監督の前作『イーダ』でも思いましたけど… この男女は監督のパパとママがモデルになっているそうで… 『イーダ』は確かおばあちゃんがモデルでしたよね… なんか監督、かっこいいけど,絶対に女難の相、出てますよね…。

何はともあれ、素晴らしい映画であることは間違いありませんので、是非皆さん、ご覧ください!! もう絶対におすすめです。すべてのシーンが、とにかく素晴らしいし、音楽も。「オヨヨ〜イ」


▶ …とか、書いてたら、プレス資料が届き,音楽のことがさらに詳細に分かった! これは面白い。ここでものちほど紹介していきたいと思います。

▶ プレス資料に寄稿していたオラシオさんの情報によれば、ポーランドではジャズの世界でも伝統音楽を取り上げる傾向がこのところ多いのだとか。詳しく聞きたい。オラシオさんに教えてもらわなくちゃ! 

▶ プレス資料においてマゾフシェに対する監督の発言がいい。「私が子供の頃、ラジオやTVから彼らの音楽いつも聴こえてきた」「国民の公式音楽だ。それを取り除くことなどできない」「私の友達たちは、マゾフシェをカッコよくないしバカらしいと思っていた。違法に録音されていたスモール・フェイセスやザ・キンクスを聴いていた」「でも私は5年前にマゾフシェの公演を観て、完全に虜になった」なるほど!!! こういう流れか… ラジオやTVでマスコミが大量に流す音楽=ダサいもの…という若者の構図は変わらなんですなぁ… 面白い!! 


『COLD WAR あの歌、2つの心』

6/28(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ 
脚本:パヴェウ・パヴリコフスキ、ヤヌシュ・グウォヴァツキ 
撮影:ウカシュ・ジャル
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン 他

2018年/原題:ZIMNA WOJNA /ポーランド・イギリス・フランス/ ポーランド語・フランス語・ドイツ語・ロシア語 / モノクロ /スタンダード/5.1ch/88分/ DCP/ G / 日本語字幕:吉川美奈子

配給:キノフィルムズ

公式ページはこちら

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映画『COLD WAR あの歌、2つの心』と農村マズルカ

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ワルシャワ・レポート 
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音楽ライター:オラシオさんによる
ポーランドの伝統音楽とジャズ 
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